ワーキンググループからの提言(案を含む)(2004年10/11月):1. 研究助成の申請枠拡大に関する提言(案) 2004年10月

研究費等助成機関への提言

[日本分子生物学会男女共同参画ワーキンググループ案]

男女共同参画学協会連絡会は、政府、公的機関および民間の科学研究費等助成機関に対して、以下の提言をいたします。

1 現在ある種々の研究費助成について、常勤職の有無に関係なくキャリア形成期にあるすべての研究者が応募できるようにすること。

2 常勤職に就いていない科学技術研究者から優れた研究計画を持つ人材を発掘し、一定期間、研究場所・研究費・本人を含む人件費を提供するような研究費助成の種目を、分野を限らずに拡充すること。さらに、このような助成種目には、一定の要件を満たしていれば年齢・研究歴を問わず何回でも応募できるようにすること。

3 研究費申請に際して、育児・介護など何らかの事情によって、研究に完全に専念することが難しい時期が過去にあった場合、応募書類の過去の業績欄に特記事項を記入する場所を設け、応募者がそれを説明できるようにすること。また審査員はその事情を理解し、選考に際して総合的に判断するようにすること。

4 種々の研究費助成や研究員等の選考時の審査員として、積極的に女性を登用すること。

5 公募による研究計画の採択や大規模な研究環境整備を含むような大型の研究費の審査においては、男女共同参画推進に資する取り組みを奨励し、女性科学技術研究者や若手研究者の育成を目指している計画を積極的に採択すること。

提言に至った動機と趣旨

 男女共同参画学協会連絡会(以下連絡会と略す。)は、平成14年10月に自然科学系の39学協会の男女共同参画委員会が加盟して発足しました。連絡会は、文部科学省生涯学習政策局から「科学技術系専門職の男女共同参画実態調査」に関する調査研究事業の委託を受け、39の学協会会員約40万人に対してアンケートを実施しました。このアンケート調査には約2万人から回答が寄せられ、その分析結果は、平成15年度文部科学省委託事業報告書 「21世紀の多様化する科学技術研究者の理想像―男女共同参画推進のために―」として、平成16年3月に発行されました。この報告書は 連絡会ウェブページ(http://www.djrenrakukai.org/) より入手できます。

 連絡会が行ったこのアンケート調査の結果、女性科学技術研究者が研究活動を続けていくうえで直面する、さまざまな問題点が浮かび上がって参りました。 その一つが、会員の職業階層に現れた男女差です。すなわち、女性会員では大学院生またはポスドクの割合が40%と極めて高い値を示しました。これは男性会員の同比率17%と比べて、2倍強という高い値であります。また、平均的にどの職業階層に属しているかを調べますと、女性は男性に比べてより低い職業階層にいることが明らかになりました。

 特に、自然科学系の学会である当連絡会会員の女性比率は1~20%と低いことが特徴であり、なかでも物理、数学、自動車、機械系の学会では1~5%と低く、化学、建築、照明系の学会では6~14%であり、比較的高いとされる生物系の学会でも15~20%です。このアンケート結果から、自然科学の分野で男女共同参画社会を実現しようとするならば、より多くの女性達が自然科学の分野に参入し活躍できる条件作りを早急に行わなければならないことを、痛感いたしました。特に、常勤ポストをもつ女性研究者の比率はさらに少なく、非常勤講師や度重なる任期付き職などを続けながら研究活動を行っている研究者やポスドクに女性が集中しているのです。

 常勤職に就いていないキャリア形成途上の研究者は、学問分野の最先端に立ち始めた、将来の自然科学を担う大切な卵であります。しかしながら、日本学術振興会特別研究員のような科学研究費を伴った研究員となれる人はごく一部に過ぎず、COE研究員、大学の非常勤講師、特定の研究機関や研究グループが雇う機関研究員をはじめとする各種の研究員など、自らの研究費を持たない非常勤の研究者が多いというのが実情であります。自分の研究費を持たないこれらのキャリア形成期にある若手研究員が、研究費を持っている研究員と比べて研究能力が劣っていないことは、しばしば経験するところであり、また、種々の調査からも明らかにされています。自己裁量可能な研究費の額があまりに低いと、本来同等の研究能力があったとしても、その能力が充分に発揮できなくなります。したがって、非常勤研究員に対して、自らの実績と努力を基に、自由な発想に基づく優れた独創的・先駆的研究を発展させるための競争的研究資金を獲得する機会が広く与えられるならば、それは多くの非常勤研究員1にとって大きな励みになると考えられます。同時に、これは科学の発展にとっての必要不可欠な条件と考えます。

 またこれらのキャリア形成期の世代は、多くの場合、出産・育児適齢期でもあり、多大な制約のもとに研究と育児を両立させるべく努力を重ねている世代でもあります。このような研究者が研究費を申請する際に、応募書類の特記事項欄に、研究に完全には専念することが困難な時期があった事情を記載することができ、かつ審査員はその事情を理解し選考に際して総合的に判断する制度が整えば、研究と育児の両立に努力している女性研究者にとっては力強いサポートとなります。この事情には、出産・育児のみならず、介護、闘病その他の困難な事情も勿論含まれます。このような施策によって、高い専門性を持つ人材を生かすことができれば、それは我々の社会にとっても有益なことと考えられます。

 今回、文部科学省の研究振興局学術研究助成制度が変更され、非常勤研究者も応募できるように応募資格が拡大されました(16振学助第68号、平成16年7月30日通達)。これは「科学研究費補助金が、研究者の自由な発想に基づく優れた独創的・先駆的研究を格段に発展させることを目指した研究資金であり、わが国の学術研究の振興そのものを目的としている。」という科研費の目的・理念に照らし合わせて、より多様な勤務形態・職名の非常勤職員に対し、優れた独創的・先駆的研究を広く推進できるようにするために行われた措置だと思われます。私達は今回の措置が、全省庁、公的機関、および民間の諸研究費の募集に波及すれば、常勤職についていない研究者やより低い職業階層にいる研究者を励ますことは間違いなく、ことに、女性科学技術研究者を支援し育成する面で極めて重要であると考えます。

 これが、提言の項目1、2および3に到った理由であります。常勤職に就いていない科学技術研究者が、多様な研究費の申請権を与えられ、総合的に評価され、研究プロジェクトの研究代表者あるいは分担者となることができれば1、女性科学技術研究者のみならず男性科学技術研究者にとっても非常に有益なことであり、より効果的な人材活用につながると考えます。

 

 私たちは、常勤職の有無に関係なくすべての若手科学技術研究者が研究費に応募できるような仕組みをさまざまな形態で実現して頂くことを要望いたします。ここで、若手科学技術研究者とは年齢にかかわらず、キャリア形成期にある人をさします。最近、ポスドク、任期付き任用等の新しい形態の短期雇用者が増加しつつあり、多様なキャリアパスを歩む人が増加しております。幅広い学問分野で研鑽を積んだあと、境界領域等で優れた業績を上げる例も増加しておりますので、若手科学技術研究者とは実年齢だけでなくキャリア形成期にある人すべてを含むべきだと考えます。また、キャリア形成期は同時に出産・育児適齢期でもあるため、その間研究の進捗が遅れる場合は少なくありません。出産・育児の間研究のテンポを落としたり、いったん中断したりしたのち、育児が一段落した段階でキャリアに復帰する道を整備することが大切です。しかしながらキャリア形成期の研究者を支援する趣旨で設けられている現在の研究費・奨学金助成制度の多くは、年齢もしくは学位取得後の年数によって申請資格を制限しています。このため、育児等によっていったんキャリアが遅れると若手向けの助成を受ける資格を失ってしまい、さらに不利な状況におかれてキャリア復帰が妨げられてしまうという悪循環が現実に起こっています。従って、キャリア形成期は年齢や学位取得後の年数で一律に定義するのでなく、その申請者が現実に今就いている職層によって定義すべきだと考えます。

 以上の提言における対象から、男性を排除する必要はないと考えます。男女共同参画の立場から、男性も女性も等しくこのような恩恵を受けるべきだと考えておりますが、常勤職に就いていない女性の比率が極めて高いので、結果として女性を励まし支援することになると考えます。

 また、様々な意志決定機関への女性の参加を促すことは、男女共同参画の立場から極めて重要なことであります。しかし現実問題として高位の職層の研究者には女性が少ないため、高次の意思決定機関には女性の占める割合が極めて低いのが実情です。従いまして、提言4のように、種々の研究助成金費や研究員等の審査員として積極的に女性を登用して頂くことを要望いたします。これらの審査と運用に関しましても、女性が積極的に参画するようになれば、新しい視点が加わり、より良い方向に発展すると考えるからであります。

 また、提言5のように、研究提案の募集の際に男女共同参画推進に資する取り組みを奨励するということを明記し、女性科学技術研究者の育成をめざしているプロジェクトを積極的に評価し、採択していただくように要望いたします。国立大学協会の調査報告によれば、一般に研究教育の水準が高く国際競争力も高いと考えられる欧米において、女子学生と女性教員の割合は極めて高く(米国の女性教授は17.8%)、我が国の水準(国立大の女性教授は4.1%)とは比較になりません。これは、「多様性を積極的に取り入れている社会は活力に富み、大きな成果を生み出している。」という現れでありましょう。世界的な研究教育の拠点形成をめざすならば、高等教育における女性の比率を飛躍的に伸ばすような柔軟な施策も同時にとられるべきです。この状況を鑑み、当連絡会といたしましては、男女共同参画の理念を取り入れ、若手の女性研究者の育成や博士課程における女子学生の比率向上などを具体的に実現しうるプログラムを高く評価し、積極的に採択するという項目を、審査要綱に取り入れるよう切に要望いたします。既に採択されたプロジェクトにつきましては、その実施にあたって女性に十分な機会が与えられるよう要望します。高等教育における女性の比率の向上と予算の重点的配分があいまって、日本が世界に誇りうる最高水準の研究教育拠点が創生されることを願ってやみません。 以上の理由から提言5に至りました。

以上

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1 無所属の研究者が科学研究費等助成に申請する場合には、研究機関に所属する常勤の研究者が「研究費取得後の受け入れ先」となる等の条件を課すことが必要となるだろうと考えられます。