「大学院の無償化を目指して」開催報告

●日 時:2019年12月4日(水)11:45~13:00

●会 場:福岡国際会議場2階203

●参加者:約240名

●講 演:安田 涼平(マックスプランク・フロリダ研究所)

 

 今回のランチョンセミナーでは、大学院の無償化(あるいは実質的な無償化)について、日本の現状とアメリカでの例を併せて考えてみました。アメリカの大学院に関して、マックスプランク・フロリダ研究所の安田涼平博士にお話していただいたあとでパネルディスカッションを行いました。また、会場には、文部科学省の相川さんにもお越しいただきました。

 学会参加者に行った以前のアンケートで「現在減少傾向にある博士課程進学率は、どうしたら増加すると思うか」との質問に対する答えで最も多かったのは「経済的サポートを充実させる」ということでした。また、会場で行ったケータイゴングによる「大学院の無償化によって、日本人の博士課程進学者が増加すると思いますか?」、「大学院無償化・給付型奨学金制度が適用されたら、迷うことなく博士課程に進みますか(進みましたか)?」との質問に対する答えも7割以上が「はい」との回答でした。分子生物学会の参加者が対象なので、研究意欲のある学生・研究者が母集団であることを差し引いても、これらの結果は、経済的サポートが博士課程への進学に大きく影響するということを示唆しています。その一方で、この母集団の中でも上記の質問に「はい」と答える割合が7割強に留まった(つまり、3割近くが「そう思わない」という回答であった)ことは、大学院博士課程を修了した後に必ずしも明るい未来が見えないこと、あるいは、現在の研究室が必ずしも自分の興味や研究スタイルとあっていないことが要因であるとも考えられます。パネリストのコメントにもあったように、大学院の無償化(経済的サポート)、大学院の教育内容の充実、その後のキャリアパスの3つを一体で検討・改善していく必要があると思われます。

 また、大学院無償化した場合に、大学院生の質も懸念されます。安田先生がアメリカの大学院事情について説明して下さいましたが、優秀な大学院生を集めるために(教育、研究、経済的に)優れた環境を提供しているとのことです。大学院は実質的に無料であることに加え、給付型奨学金や給与が支払われるのが普通とのことでした。当然、選抜は厳しくなり、日本で定員を埋めるのに必死になっている状況とは異なっているようです。日本においても、実質的な授業料無償化や給付型奨学金・RA制度などにより博士課程の待遇改善が進めば、研究意欲があっても経済的な理由で進学を断念する学生の進学を促すことができると思われます。また、その財源をどうするのかというのは問題についても議論がありましたが、大学の資金活用や研究費の規模が異なるため、アメリカの方式をそのまま日本に導入するのは無理がありそうです。日本の大学も変わる必要はありますが、それ以上に、次世代を担う人材を国として育てるという政策も重要であると思います。

 ランチョンセミナー後には、そこでのディスカッションを受けて、キャリアパス委員と安田先生が文部科学省の相川さんと意見交換を行いました。

(文責:座長・木村 宏)