●共催:国立研究開発法人日本医療研究開発機構
●日時:2020年12月3日(木)11:45~13:00
●会場:オンライン開催(MBSJ2020 Online)チャネル:Ch 01
●参加者:466名(のべ人数)
●講演:塩﨑一裕(奈良先端科学技術大学院大学)
塩見美喜子(東京大学大学院理学系研究科 / EMBO member)
Iris Wieczorek(株式会社IRIS科学・技術経営研究所 / EMBO consultant in Japan)
昨今、日本の国際競争力低下の一因として、海外へ行く研究者の減少があげられています。そこで今回のキャリアパス委員会主催ランチタイムセミナー・キャリアパス企画では、研究者の海外留学について取り上げることにしました。新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によりZoom Webinarでの開催となりましたが、大変盛況に終わり、延べ466名の方にご参加・ご閲覧いただきました。
本セミナーは、国立研究開発法人・日本医療研究開発機構(AMED)との共催での開催となりました。塩﨑一裕先生からはHuman Frontier Science Programのフェローシップ獲得の体験談、塩見美喜子先生とIris Wieczorek先生からはEMBOの取組みなどをご講演いただきました。またキャリアパス委員のパネルディスカッションでは、Zoom Webinarの機能を用いて参加者と双方向のコミュニケーションを取りながら現状の課題や解決方法について議論を行いました。
研究留学に関して参加者のアンケートを実施しましたが、研究者にとって留学は、キャリアパスの構築をはじめとして、海外生活の経験や研究業績など多くのメリットがあると捉えられていることがわかりました。一方で、留学に興味があるものの迷っている人が多いこともわかりました。留学の阻害要因として最も多くあげられたのは「お金」でした。本アンケートは分子生物学会の年会参加者が対象のため、研究意欲のある学生・研究者が母集団になります。経済的サポートにより、こうした若者の海外留学促進に一定の効果が期待されましたが、それだけでは不十分であることもわかりました。例えば、海外留学助成金である日本学術振興会海外特別研究員の「生物学/生物系科学」の採択率は10年ほど前と比べると10%近く上昇しており、現在約4人に1人が採択されている計算になります。しかし内訳を詳しくみると、採択率の上昇は申請者数の減少によるものであることがわかります。海外留学の阻害要因として「お金」の次に多かったのは、「家族のこと(⼦育てや介護など)」と「語学力」でしたが、これと同じく多くの票を集めたのは「帰国後の就職」でした。最近では大学教員や企業の採用でも海外留学経験者が優遇されることも増えてきてはいるようですが、まだ十分ではなく、金銭面や生活面で苦労をして海外留学をしても帰国後の就職に不安があるため留学を躊躇してしまう様子が伺えました。
今回、限られた時間の中ではありましたが、留学助成金の獲得にはじまり留学先の選定や就職に関する情報をカバーしつつ、学生や研究者の方々が考える課題を共有し解決策について議論しました。一昔前と比べて留学に関する情報は増えていますが、同じ分野で活躍している方々の生の声を聞くことは、現在留学を検討している方々にとって貴重な機会になったことと思います。また、研究留学者の減少の理由として日本の若者は「内向き志向」という表現がよく使われていますが、少なくとも本セミナーの参加者アンケートの結果からは、留学に多くのメリットを感じているものの、行動に移すのに十分なインセンティブを感じていないことが課題であると思われました。国際競争力の向上のための政策として若手研究者の海外留学の促進があげられていますが、これを達成するためには、経済的サポートという入口だけではなく、その後のキャリアパスまでを見据えた出口戦略のサポートも示すことが重要と考えます。
(文責:座長・來生(道下)江利子)