●日時:2024年11月29日(金)11:30~12:45
●会場:福岡国際会議場2階203(第12会場)・オンライン
●参加者数:290名(現地参加210名・オンライン参加80名)
このセッションでは、まず冒頭で事前アンケートの結果概要を簡単に振り返りました。セミナーのタイトルにもなっている「あなたの研究生活、天国ですか? 地獄ですか?」の回答は「どちらともいえない」が最も多く、会場で参加者の皆さんに同じ質問をしてみたところ、やはり「どちらともいえない」が一番多かったのですが、会場ではそれに迫る勢いで「天国」と答えた方がいました。皆さんと「天国」の要因や「地獄」への対策を考えていきました。
まずは「ボスからのパワハラがひどいです」という参加者の方がいました。パワハラは論外ですが、相手の先生が必ずしも悪い人ではない場合でも、相性というものもあります。合わない人とうまくやっていくのも時に大切とはいえ、ラボを移るかどうかやそのタイミング、移る先などは、どのように見きわめるのがよいのでしょうか。パネリストからのアドバイスです:
・相手は変えられないが自分が変わることはできる。ラボを移るのは若いほど動きやすく受け皿も多い。
・ただし短い期間で何度もラボを転々としてしまうと、学生側が何か問題を抱えているという印象を与えかねないので、次はうまくマッチングできるよう、移るときにできるだけ調べることも重要。
・例えばあるラボに過去どれだけの人が入り卒業したかといった客観的なデータは、一つの判断基準となりうる。
・立ち上げられたばかりのラボで人の出入りに関するデータがまだ蓄積されていないところは、やはりラボに所属する人々と実際に会って話してみるのがよい。よいPIはラボをオープンに見せてくれると思う。
「指導教員が多忙すぎて研究の相談ができず辛い」というお悩みもありました。国公立の研究機関や、大学でも附置研究所など、一般的な大学のラボに比べて規模が小さく、より研究に専念しやすい環境のラボもあります。例えば研究がうまく行かない時に「同世代の友達と気分転換に出かけたい」人は仲間がたくさんいる大学のラボ、「気軽にボスへ相談したい」人は研究機関のラボを調べてみてもよいかもしれません。
「熱意が感じられない学生」や「学生からの逆ハラスメント」に困惑するPIの皆さんからのコメントもありました。パネリストからは「ラボが合わないなら別の研究室を勧めてあげたいし、研究が合わないなら合う研究を引き出す方向で指導したい」というコメントがありました。
「博士課程への進学は覚悟がいりますか?」という質問に対しては「いざとなったらほかの道がある」という気持ちがあれば一歩踏み出せる人もいるかもしれないという話になり、エディターやフリーランスのサイエンスライター、サイエンスに付随したグラントのオフィスなど、研究の知識があれば勝負できる道はたくさんあるということが紹介されました。なおキャリアパス委員会では2023年のセミナーでも博士号の持つ価値や可能性などについて議論しましたが、海外では博士号を取得していると有利になったり優遇されたりする場面も多いようです。
研究で行き詰まった時などに、パネリストの皆さんが「ハッピー指数」を上げてポジティブ変換する方法を教えてくれました。意外とフィジカルな対策も有効なようです:
・気力と体力はつながっている。体が資本。コロナのとき人間関係が希薄になり学生さんが鬱々としていたが、研究所にジムができてハッピー指数が上がっている模様。体力は重要。
・睡眠や食べることも大事。元気な研究者は、観察しているとものすごく食べている。
パネリストに対して『地獄』の経験談リクエストも出ました。ラボでの具体的なトラブルシューティング参考事例についてはパネリストへ個別にお尋ねいただくとして、セミナーでいくつか教えてもらった打ち明け話です:
・何かあった時、逃げることも選択肢としてあっていい。自分も引きこもった経験はある。一年逃亡して山籠もりし、やっぱり研究がやりたくて戻り、今は世界的な研究者になった人もいる。
・自分のラボが5年以上鳴かず飛ばずで、ラボを縮小せざるを得なかった。「5年結果がない人もいる。がんばりなさい。10年出なかったら、出ないね」というアドバイスをもらい、がんばった。人が少なくて寂しい時はイベントを盛り上げるため、近隣のラボと合同飲み会にするなどの工夫もしていた。
・当初全く分野の異なる学科で採用されラボの設備がないところから始まった。最初の論文が出たのは着任して5年経ってからだった。
事前アンケートの結果を見ると、研究生活を『地獄』と感じている人々の所属しているラボは、外の人との交流が少ない傾向にあるようです。そんな皆さんへパネリストからのアドバイスです:
・辛い時、学生相談室へ行く前に同級生や近隣のラボの人など身近にいる人にまず話してみると、相手の環境が分かっていることからより早く解決に近づくケースもある。また、ラボのPIとの関係や研究内容に悩んでいる場合には、そのPI本人ではなく別のラボのPIに相談するのも手。若い人が訪ねてきたらたいていのPIは喜んで研究の話をしてくれる。
・昔、とあるボスから「苦労は人脈をつくる」と言われた。苦労していると誰かに助けを求めるので人脈ができる。研究室で困ったら研究室の外で人脈をつくってみると新しいパスができる。学会にきていろんな分野の人と会うのもいい。ラボの傾向を学ぶショーケースになっている。
参加者の方から「地獄は必ずしも悪いことではないんです。」というコメントをいただきました。事前アンケートの結果が出てから委員のメンバーでこのセミナーの企画会議をした際、「地獄」をただ悪いことという方向性にするのではなく「地獄」から何か学ぶことはできないかと話し合いました。当日は参加者の皆さんとまさにそのような思いを共有できて何よりでした。
(文責:座長・岩崎 由香)