キャリアパス対談
第6回:斎藤通紀×石井 優

委 員:斎藤通紀(京大・医)、石井 優(阪大・医)
日 時:2014年9月22日(月)18:00~20:15
場 所:京都大学大学院医学研究科C棟208号室

【斎藤】今回の対談が第18期の最終回ということですので、キャリアパス委員会の活動を通じて感じたこと、そして次世代への想いを、イメージング研究の一翼を担う石井先生とお話ししてみたいと思います。石井先生、今日はよろしくお願いします。

【石井】斎藤先生、こちらこそお願いします。
 昨年のキャリアパス委員会企画でも取り上げましたように、若手研究者が自身の研究テーマをどう見据えるかということは、将来のキャリアパスを考えるうえで避けては通れません。斎藤先生はどのような経緯で現在のテーマに辿り着いたのですか?

Michinori Saitou【斎藤】医学部の場合、記憶や意識のメカニズムなど、まずは神経の分野に興味を持たれる学生さんが多いと思います。実は私もそのひとりだったのですが、講義があまり面白くなかったのか、自身の頭脳が追い付かなかったのか、前者はもちろん冗談ですけれども(笑)、最先端の技術を駆使して切り込むとしたらどの分野かなということを考え、興味を抱き始めていた分子生物学を勉強するようになりました。それに当時の研究環境では、神経科学の大きな進歩はもう少し先であるように感じていたこともありました。

【石井】おっしゃるとおりですね。どのような機器や試薬を使えるか、ハード面での研究環境も分野選択の幅を決める要因となっているでしょう。とは言っても、ラボを主宰するボスの影響が大きいのが現実的なところだと思います。

【斎藤】はい、私も多くの先生方から愛情豊かな指導を受けて研究というものにふれてきたわけですが、月田承一郎先生による形態学のセミナーで、美しい形態がいかに美しい機能とcoupleしているか、これを切り口に分子をidentifyしていこうというスタイルにとにかく感動して、心を打ち貫かれたのを今でも鮮明に覚えています。まだカタチを構成する分子が明らかにされていない時代でしたから、こんな面白いサイエンスができるんだったら将来を考えずにとりあえず研究してみたいという気持ちになり、大学院へ進学してすぐ月田研究室に入りました。
 形態学的な分子生物学とはどんなものか、研究がどのように進められているのか、コツコツと勉強しました。ただ、当時から私がひねくれていたからかもしれませんが(笑)、恩師である月田先生と同じ路線ではなくて、やはり自分自身が生涯の研究テーマとするものを考えなければいけないと思い、同じようなscopeだけれども、かつ哲学的なテーマは無いかと勉強し、大学院卒業後は生殖細胞を扱うようになりました。

【石井】すごく目的論的に勉強されていたことがわかりますが、テーマを決めてからも不安や悩みは尽きないものですよね。

【斎藤】そうですね。私はちょうどその時期に英国へ留学していたのですが、ゲノムインプリンティングというノーベル賞級の発見をしたアジム・スラニー教授が「生物学者にとって細胞は体細胞と生殖細胞の2種類しかない、この二つの違いはessentialだよ」そんなことをおっしゃるので、ビビらずにやろうと思いましたよ(苦笑)。
 石井先生がイメージング研究に至ったきっかけはどのようなものでしたか?

Masaru Ishii【石井】私が研究を始めた頃は、免疫学の世界でも分子生物学が全盛でしたが、私も天邪鬼なところがありまして(笑)、周囲と同じではどうも面白くないなと、人とは違った独自のニッチを見つけて研究をしたいなと思っていました。「この人は○○(研究)の人」と覚えてもらえるのが、研究者にとってはひとつの目標のようなところがありますよね。ですから、もともとのカメラ好きが顕微鏡への興味につながったこともあり、これを免疫研究に役立てたいと考え、実際に起こっている免疫現象を顕微鏡で観たいと思ったのが大きな動機になりました。
 そして、留学先のラボで顕微鏡と格闘することになったわけですが、苦労の末、ついに骨組織内で生きた細胞の動きと場所を捉えることができたんです。最初にぼんやりと見えた微弱なイメージが、いくつかの条件を改良することで鮮明に見えるようになってきたのも、さきほどお話に出た研究環境、技術の進歩が自分に味方してくれたと思っています。
 いつもご指導を頂いている岸本忠三先生も厳しい先生ですが、留学中のボスの研究指導も別次元の厳しさがありました。今となれば懐かしい思い出ですが。新しいデータが出たといってボスに持っていくと、四方八方から観察して、「ホンマっぽいけど、ホンマかどうかわからん」とか言われるんですよ(苦笑)。しかしこれがいい経験になったのは確かで、今では私もラボでやるようにしています。

【斎藤】それは研究者としてすごく大事なことですよね。常日頃からそういった習慣があると、疑わしき研究は見破られるはずですし、何度か批判されたとしても、自分のデータに自信があるなら跳ね返せばいい。

【石井】そうなんです。私たちがpositiveだと思って持っていくと、ボスはnegativeな見方をする。逆に、私たちがへこんでいるときは励ましてくれる。ボスとスタッフがいつも同じ視点ではいけないということですよね。
 同じに観えそうなことでも、観る人によっては何か違いを感じたりすることがあると思います。観るには心も必要ですし、研究に携わる者としての姿勢を持ち合わせていなければいけない。だからこそ、ラボメンバーの仕事を理解できるだけの日常的なコミュニケーションが重要です。

Michinori Saitou【斎藤】特に若手のなかには、同じ実験をするのも楽しくて、しっかりしたデータを出し続けている人はたくさんいます。ラボでそういう人をパーマネントに雇えると、ものすごいパワーになるんですよね。
 ですから、5年ごとに任期を区切って評価するような仕組みを血眼になってつくるのではなく、マネージメントを必要としないポジションを拡充するなど、国の施策としてそういうキャリアパスがあるべきと思います。真面目に研究しているんですから、実際に汗をかいた人が働きやすい環境が必要でしょう。面白い研究は自然と裾野が広がります。落ち着いた生命科学というか、そういうなかで仕事をしたいですし、次世代にもそういうなかで頑張って欲しいです。

Masaru Ishii【石井】研究テーマひとつをとっても、いろいろと迷いながら自分の生きる道を探求してきた人の仕事って面白いですよね。時間と研究費は有限ですから、悩んだり苦しんだりしても、何をすべきで何をすべきでないか、その両方を考えておき、自分を信じて前に進むことを楽しむ余裕も欲しいところです。

【斎藤】研究のスタイルにもよるでしょうが、やはり続けること、そういった頑固さみないな部分は欠かせないと思います。生物学は奥が深くて複雑ですからね。一つずつデータを積み上げ、粘り強く正攻法で研究を進めていきたいです。
 地道なライブ活動でファンを獲得した浜田省吾さんが、最近のライブでこんなことを言っておられたように記憶しています。「始めた頃は30歳までロックを続けられるとは思っていなかった、それが今は60歳になった」これですよ!私も、まだまだ長い道のりの先ですが、最終講義でそんなことが言えるようこれからも努力したいと思います(笑)。

【石井】拝聴できるのはだいぶ先ですが、ここでネタをバラしてよかったんでしょうか…