研究倫理委員会企画・研究倫理ランチョンセミナー「最近の学術論文の動向:フェイク論文が増えている?学術的品質保証の必要性」開催報告

●日時:2024年11月28日(木)11:30~12:45

●会場:第12会場(福岡国際会議場2階203)・オンライン

●参加者数:246名(現地参加200名・オンライン参加46名)

●講演:
Bernd Pulverer (Head, EMBO press/Chief Editor, EMBO Reports)
原英二(大阪大学微生物病研究所・教授)

 近年、科学技術の飛躍的な進歩と、生成AIの発達等も相まって、研究はスピーディーに進められ、サイエンスの発展に大きく貢献しています。しかしその一方で、生成AIがフェイク論文の量産にも利用されていることが明らかになってきています。このような科学論文の現状において、我々研究者がフェイク論文に翻弄されないようにするにはどうしたらよいのか、またデータの学術的品質を保つためにはどうしたらよいのか、真剣に考えなければならない状況になっています。そこで、今回の研究倫理ランチョンセミナーは、「最近の学術論文の動向:フェイク論文が増えている?学術的品質保証の必要性」というテーマで、企画・開催しました。本セミナーではEMBO PressのHeadであるBernd Pulverer博士と、大阪大学微生物病研究所の原英二教授にご講演を賜り、活発なディスカッションを行いました。

 まず、DORA(San Francisco Declaration on Research Assessment:サンフランシスコ研究評価宣言)の創始者のひとりであられる研究倫理の専門家、Bernd Pulverer博士に、“Transparent Publishing and Open Science : from Bench to Journal”と題して、ご講演いただきました。Pulverer博士はNature誌やNature Cell Biology誌のEditorを長く務められ、現在所属のEMBO Pressにおいても研究倫理に関する問題に長年に亘り真正面から取り組んでおられます。Pulverer博士は、投稿論文の中で見られた多くの研究不正の例として、デジタル時代以前に発表された別の化石をつなぎ合わせた羽毛恐竜の捏造化石、また日本で起きたSTAP細胞問題等を例に挙げられました。研究不正には、①単純なミスやデータの美化、②データの選択や偏向、そして③完全な捏造といった3段階のプロセスがあり、この3段階で悪質度を判断されているとのことです。よって近年ジャーナル側は、図や表になったデータに信憑性をもたせるため、元データを提示させるようにしていることと、データの再現性の重要性を強調されていました。また、近年、AIが恐ろしいほど発達しており、画像のみならず、データセットも瞬時に創り出すことが可能であり、非常に注意が必要であることも強調されていました。

 続いて原教授に、「データ検証の重要性について:慎重な研究のすゝめ」と題してご講演いただきました。自身の共著論文で、自分が関わっていないイメージングマウスのデータで捏造が疑われ、自分も共著者である責任感から、それを完全に検証し、bioRxivにpublishしたこと、その結果、すでにそのマウスを使った実験で論文をpublishした研究者からは疎まれた一方、そのマウスを使ってデータが得られず、困惑していた多くの研究者から感謝されたことなど、リアルな体験を語られました。

 最後にパネルディスカッションでは、二階堂愛委員、三浦正幸委員、吉村昭彦委員の3名もパネリストに加わり、「データの学術的品質を保つには?」という問いに対し、会場の参加者も交えて活発な議論が行われました。ここでは、ミスや不正、再現性の取れないデータが生じる原因として考えられること(実験の未熟性や画像の条件設定、コントロールの未用意、情報解析の条件設定や教師データの違いなど)が、ラボでの経験を基に複数挙げられました。このようなミスや不正を防ぐ対策としては、①再現性を他の研究者に確認してもらう、②ブラインドで第三者に実験してもらう、③研究不正に対する教育の重要性、などが効果的な対策として挙げられました。ここで挙げられた不正防止対策はサイエンスの基本事項であり、それを守ることが重要であると再認識させられました。

 以上、本倫理セミナーでは、サイエンスの遂行に最も重要な「研究データの学術的品質保証の必要性とその実現」について、活発な議論がなされたと考えています。会場は満員御礼でした。多くの研究者に本テーマに興味を持っていただき、セミナーにご参加いただきました。誠にありがとうございました。

(文責:座長・大谷直子)