東京オリンピックが2020年に開催されることが決まりました。明るい話題で嬉しいことですね。2020年は、あとたった7年後です。今年生まれた赤ちゃんが小学校に上がるまでには、東日本大震災からの復興も成し遂げられていることを強く期待します。
オリンピックと言えば、高校生向けのアカデミア・オリンピックとして、数学、物理学、化学とともに「国際生物学オリンピック」という催しもあります。世界から国ごとに選抜された高校生が、生物学の問題にチャレンジするのですが、日本では2009年に筑波ではじめて開催されました。今年はスイス大会がベルンで開かれ、日本から参加した4名の高校生は、金メダル1個、銀メダル3個を取るという快挙でした。2011年の台湾大会では、あと1歩でパーフェクトだった「金メダル3個、銀メダル1個」でしたので、もっとメディアでも取り上げて頂けたらと思っています。
今年参加した高校生たちは、2020年にどこで何をしているのでしょう……。誰か生命科学系の博士課程大学院に進学する方もいるでしょうか? 未来の生命科学を切り拓くのは次世代の若い方々です。そもそも、天然資源に乏しい我が国においては、人材こそが国力の源です。日本が科学技術立国を目指すのであれば、どのようにして科学分野の人材を育成するのかは、もっとも重要な課題の一つだと思います。
先日、ドイツのゲッチンゲン大学を訪問する機会があり、その折に「XLab」という施設を見学しました。この施設では、2階が物理学、3階が化学、4階が生物学、5階に神経生理学の講義室と実習室があり、主に高校生を対象として大学〜大学院レベルの実験を体験してもらうワークショップを定期的に開催しています。それぞれのフロアごとに異なる基調色が使われ、建物の外側の壁もカラフルです。当初はドイツ国内限定でしたが、現在は世界中からの参加者が国際サイエンス・キャンプで生の実験を体験し、参加者同士の交流も深めています。「XLab」という名前は、「Experiment, experience, exciting, expert」といういろいろな意味を込めていると、ディレクターのEva-Maria Neher教授が仰っていました。実際に高いレベルの実験を「体験すること」が深い理解に繋がるという理念に基づいているのです。それを支えているのは教員、技術職員、事務職員含めて総勢20名を超えるスタッフ。興味のある方はHPをご覧ください(www.xlab-goettingen.de)。
この企ては、ドイツにおいて自然科学系の学部に進学する学生が2000年以降にどんどん減少したことに、アカデミアも産業界も政府も危機感を持ち、上記のNeher先生の献身的な努力もあって実現したものです。日本でも、スーパー・サイエンス・ハイスクールなどの実施により、以前より高大連携が進んでいますし、理化学研究所脳科学総合研究センターでは設立当時より「RIKEN BSI Summer Program」を開校して、最長2ヶ月くらいのコースに世界各国から参加者がありますが、いずれも既存の研究室においてインターンシップを行うスタイルですから、どうしてもスタッフに無理がかかります。是非、我が国にもこのようなXLabの制度を立ちあげて、自然科学に興味のある若い方々を惹きつけてほしいと思いました。XLabでは、教員向けの研修も行っていますので、理科教員の学び直しのための活用も重要ですね。
科学人材育成のためには、もちろん上記のような中等教育への介入だけでなく、初等教育からのシームレスな施策、きめ細やかな支援が必要だと思います。理系人材が教員免許を取りにくい現状を変えることも、理科好きの子どもを増やすことに繋がるでしょう。
さて、日本分子生物学会の第36回年会は、いよいよ12月3日から神戸ポートアイランドにて開催されます。近藤滋年会長は組織委員会やプログラム委員会の先生方や事務局の方々とともに、さまざまな企画を立てておられます。ルミナリエの始まる12月の神戸にて、皆様にお目にかかるのを楽しみにしています。
2013年10月
特定非営利活動法人 日本分子生物学会 第18期理事長
(東北大学大学院医学系研究科)
大隅 典子