会員の皆様へ
このたび第20期理事長に選任され、学会運営を担当することになりました。これからの2年間、どうぞよろしくお願いいたします。
日本分子生物学会は13,000名を越える会員を擁する生命科学系で国内最大の学会です。今でこそ大規模学会ですが、1978年の発足時の会員数は約600名でしたので、40年足らずの間に20倍以上の規模に成長したことになります。分子生物学会はなぜこのような稀有な成長を遂げることができたのでしょうか。
『学問の進歩にともない、それぞれの分野はますます分化する傾向にありますが、・・・分子生物学会は、広い領域にまたがる研究者がそれぞれの専門分野で研究を続けつつ連携し、真に学際的立場に立脚した生命科学をつくることを目指すものであります。』
これは学会設立時の趣意書の一節です。渡邊 格先生をはじめ学会創設に携わった先生方の先見性と熱意が感じられるすばらしい文章で、その内容は年月を感じさせないことに驚きます(学会HPの「会報 創立30周年記念特集号」に全文が掲載されていますので、ぜひご覧ください)。1978年当時は、組換えDNA技術が国内で広まりつつあり、分子生物学が<生物学の一研究分野>から<生命現象を解明するための共通言語>に移行した時期にあたります。それまで理学、医学、農学、薬学などの別個の枠組みの中で研究されていた生命現象を、分子生物学という共通言語を使ってボーダーレスに議論するために設立されたのが分子生物学会なのです。この<学際的>で自由な雰囲気こそが分子生物学会のアイデンティティーであり、さまざまな分野の研究者を惹きつける求心力となっているのではないでしょうか。
この学際性という理念は現在に到るまで脈々と受け継がれています。たとえば、昨年12月の第39回年会プログラムを見てみましょう。「Nutri-developmental biology:成長・疾患・恒常性を調節する栄養への応答機構」、「本当にオモロイ生き物の分子生物学」、「設計生物学と進化工学のあいだ」、「最先端の化学と生物学のミックス」、「メカノメディスン:メカノバイオロジーを基軸とした基礎から臨床応用まで」、「ちいさな数理の見つけ方」、「全細胞解析が拓くマイノリティ細胞研究」など、狭義の(古典的)分子生物学の枠にはおさまらず、新たな研究の潮流を感じさせるシンポジウムが多数開催されています。
学会の最大の活動である年会では、多様な分野の研究者が集い、立場を超えて生命科学を包括的に議論できる場を提供していきます。今年2017年は、篠原 彰年会長のイニシャティブのもと、神戸ポートアイランドにて、分子生物学会と生化学会を主催として国内の32学会の協賛によるConBio2017という新しい形態で第40回年会が開催されます。来年2018年の第41回年会は、石野史敏年会長のもと、パシフィコ横浜にて単独年会として開催されます。会員の方々の積極的なご参加をお待ちしております。
第20期理事会では、第19期理事会および将来計画委員会からの提言をふまえ、以下の3点について重点的な議論を進めてまいります。
1)年会のあり方:これまで当学会では年会長に年会運営を一任する形になっていましたが、今後の年会運営においては年会長と理事会の連携を深めることになりました。これにより、他学会との合同開催等を含め、今後の年会運営のあり方について継続性のある議論を進めていきたいと考えています。
2)国際対応:学会の国際対応については、年会の一部英語化に加え、2013年より国際会議支援事業によりオリジナリティーの高い国際会議の開催を支援してきました。また、英文の学会誌である『Genes to Cells』の刊行も日本からの研究発信に貢献しています。ただ、近年、中国をはじめとする近隣諸国における生命科学研究は急激に発展していますが、当学会はその変化に十分に対応できているとはいえません。今後、海外の生命科学系学会との連携の可能性も含め、どのような「国際化」が会員にとってメリットがあり、日本の生命科学の発展に貢献できるのか、議論していきます。
3)社会への対応:昨年は、当学会会員である大隅良典先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されるというたいへん喜ばしいニュースがありました。しかしその一方で、生命科学研究、とくに基礎研究をとりまく環境は、年々厳しくなり、課題が山積しています。若手研究者・女性研究者のキャリアパス、研究不正防止・研究倫理教育、小中高生に対する生命科学教育、などの諸問題に対して、各委員会における活動を中心に、積極的に取り組みます。また、生命科学系最大の学会として、政府や文部科学省などに対して政策提言をしていくことも必要だと考えています。すでに、キャリアパス委員会が企画したフォーラムでは文部科学省の方にパネリストとしてご参加いただくなどの試みを行っています。今後、関連学会や、生物科学学会連合、日本学術会議などとの有機的な連携も検討していく予定です。
分子生物学会は設立から約40年の間に多くの研究者と研究分野を取り込みながら、時代の流れとともに、しなやかに変化してきました。この柔軟性こそが当学会の強みです。これからどのように変化していくべきなのか、会員の皆様と一緒に考えていきたいと思っております。皆様のご協力とご支援、各活動への積極的なご参加をどうぞよろしくお願いいたします。
2017年1月
特定非営利活動法人 日本分子生物学会 第20期理事長
(東北大学大学院生命科学研究科)
杉本亜砂子