会員のみなさまへの第12期会長からの手紙

三島で桜祭りの中を岩手に移動した時には、ここ盛岡はまだ枯れ木の野原で寒さを感じました。しかし、4月も中旬を過ぎると、梅をかわきりに、あらゆる花が一斉に咲き、白樺、から松、ポプラなどの新緑が美しい輝きを見せて、急に周りが明るくなりました。まるで、日本分子生物学会の21世紀の仕事始めが祝福されている様で、その清清しい中で第12期目がスタートしました。しかし、その会長に選出されて、今さらながら、その責任の重さを身にしみて感じております。

 第9期の松原謙一会長と第10期の大石道夫会長が、会報ですでに「今後の日本分子生物学会がどうあるべきか」を述べておられるますが、前11期柳田充弘会長は、具体的に21世紀に向けた改革案を提案し、それらの実現に向けて努力されました。それらは、会員の意志が少しでも学会運営に反映されるように、これまで20人であった評議員を30人に増員し、3つの新しい事柄がスタートしたことです。その第1は、第一回春季シンポジウムを年会を行う事ができない地域で開催し、日本全体の分子生物学の活性化をはかること。第2は、富澤編集長の渾身の努力によって、国際的な評価が得られるまでに発展したGenes to Cellsを学会誌にして、益々の充実をはかること。そして、第3は、国際賞の学会推薦に関する準備を行うというものです。その中で、第1回春季シンポジウムを、岩手看護短期大学の小川英行教授と私が計画し、5月10~12日の3日間、参加者160名を迎えて、「一会場で寝食を共に」を原則として開催しました。このシンポジウムは、色々な分野の研究の専門化が進む中で、生命科学の効率良い発展と、分子生物学を地域の学問としても根ざすことを目的として行われましたが、多くの貴重な講演と有意義な討論が行われ、これこそが、我々が目指している会議であると、参加者の多くが感じた有益な会であったと思います。また、シンポジウムの前日に行われた市民講座も、多くの高校生や大学生と市民に対して、分子生物学の学問の意義とその必要性、面白さを充分に伝えるものでした。それは講師の先生方の熱意に依ることが大でしたが、何よりも参加者の熱気が伝わってくる講演会でありました。これらは、学会の使命のいくつかが充分に果たされたことを認識させられる一時でもありました。

 私は、これらの活動をさらに充実させ、今世紀の学問を牽引するような日本独自の研究を世界に向けて発信すること、また一方では、都市中心型の日本分子生物学会の活動を、地域の文化と生産の向上に充分に寄与できるように発展させたいと考えています。そして、その役目をはたすことが、日本全体の分子生物学の繁栄に繋がると考えています。Genes to Cellsを立派に育てることもそのために必要な条件となります。会員の皆様のこれらの活動に対するご協力と率直なご意見、あるいは 新しい提案を戴くことを期待しております。

小川智子