会員のみなさまへの第15期会長からの手紙

本年4月の評議員会で第15期日本分子生物学会の会長に選出されました。日本分子生物学会は現在、1万5千人を超える会員を擁する日本でも有数の学会に成長しています。そのような学会の会長職をおおせつかり責任の重さを痛感しております。学会の将来のため、日本のサイエンスのため、何ができるか考え、精一杯、努力したいと思います。会員の皆様の激励と、ご協力をどうかよろしくお願いいたします。

分子生物学会は1978年12月、約600名で発足しましたが、その設立に尽力され、第1期、第2期の会長を務められた渡邊格先生が本年3月23日、お亡くなりになりました。先生が、日本における分子生物学の発展のために尽力されたことに対して、心からお礼を申し上げ、先生のご冥福をお祈りいたします。

第15期の学会役員を決定いたしました。任意団体として活動してきた分子生物学会は本年6月末、特定非営利活動法人(NPO法人)に移行します。そのため、評議員は理事、学会長は理事長へと名称が変更になります。分子生物学会の予算規模は2008年度、約3億7千万円です。法人化に伴い、この会計がより明瞭になるとともに学会の運営に対する理事の責任が重くなります。一方、徹底した情報公開により社会的信用は増し、より積極的な運営、新しいプロジェクトの企画なども可能ではないかと思います。

日本のサイエンスはさまざまな問題を抱えています。研究費の問題、男女共同参画問題、そして、サイエンスの“integrity”の問題です。特に、サイエンスのintegrityに関しては、昨年、杉野明雄元教授が数報の捏造論文を発表していたことが明らかになりました。杉野元教授は、長年、分子生物学会の評議員を務められ、2003年には分子生物学会の年会を主催しています。この問題に対応するため、学会は柳田充弘先生を委員長とする委員会を組織しました。この委員会は今期も継続する予定です。何があったのか少しでも明らかにできればと考えています。サイエンスは大変楽しく、やりがいのある仕事です。しかし、その面白さは実験データに真摯に向き合い、それを正直に報告してこそ成立します。サイエンスのintegrity の問題に関して、年会などで、啓蒙活動を行う必要があろうと思っております。

分子生物学会・年会は、若い学生、研究者に発表の場、研究交流の場を提供するものであり、例年8000人を超える会員が出席し、会場は、熱気、活気にあふれています。先日の分子生物学会評議員会では分子生物学会の年会と生化学会の大会を合同で行うことの是非に関して非常に活発な議論が行われました。「10月、12月と同じような学会を開催する必要があるだろうか」「世界的にも分子生物学会と生化学会は合同で行われている」「生化学会でアンケートをとったがその大部分は合同の大会を希望している」との意見に対して、「分子生物学会と生化学会はその会員の体質が異なる」「分子生物学会を設立したときの原点に戻るべきだ」「学会がこれ以上大きくなることは誰も望んでいない」などの意見が出されました。

我々がサイエンスを進める際、これは生化学か、分子生物学か気にしていません。生化学、分子生物学、細胞生物学のさまざまな知識、テクニックを駆使して問題に立ち向かっています。ゲノムの配列がほぼ解明された現在、その機能を知るためには、たんぱく質の修飾、糖や脂質との相互作用を知る必要があります。一方、分子生物学会には自由闊達な雰囲気がありますが、生化学会には物言えぬ雰囲気があると思われています。分子生物学会の自由闊達な雰囲気を決して変えたくはありません。2007年、2008年と分子生物学会は生化学会と合同の年会を企画しています。一方、2009年は分子生物学会単独の開催の予定です。しばらく手探りの状態が続くと思います。会員の皆様の忌憚のない率直なご意見をおきかせください。

日本分子生物学会第15期会長(理事長)
京都大学大学院医学研究科
長田 重一