会員の皆様へ
昨年10月の新理事会準備会議において17期理事長に選任され、今後2年間本学会の運営を担当することになりました。日本分子生物学会のため、科学のために微力を尽くすつもりですので、どうぞよろしくお願いいたします。
日本分子生物学会は1978年に会員数約600名で発足しましたが、その後拡大を続け、現在では会員数1万5千人を超え、年会参加者も8,000名規模と生命科学系で最大の学会となりました。これは分子生物学が生命科学の爆発的発展の中核であったことを反映していると思います。また、分子生物学が研究の進め方の革新であったために、例えば遺伝子研究やゲノム研究等においても、常に他分野からの参加があったことがあります。同時に自由闊達な学会の雰囲気も大きいと思います。学会の前身である分子生物学シンポジウム(八王子セミナーハウスや武田研修所)では、駆け出しの学生と大先生が全く垣根なく深夜まで議論したことを覚えていますが、そのような雰囲気がまだまだ受け継がれていると思います。古いと言われるかもしれませんが、これは大事にしたいと思います。
今後の日本分子生物学会の課題に関しましては、16期の将来計画検討委員会から提言も出されており、それに沿って進めていきたいと考えています。
1)年会の充実
分子生物学会の最大の活動は年会(学術集会)です。上述したように、分子生物学は常に新しい研究戦略を開発し、他分野を取り込みさらに発展を続けてきました。分子生物学会では年会運営方針を年会長に任せて機動的に進められるようにしてきました。これにより、巨大な会ではありますが、様々な「実験」が可能になります。そして結果がよければ採用し、そうでなければやめる、といった風に続けてきたと思います。ある意味、いい加減とも言えますが、これはまさに「進化」そのもので、分子生物学会の特色を最大化するのによいやり方だと思います。このためには、高い見識をもった年会長にフリーハンドを与え、最大限のサポートをすることが重要だと思います。合同年会の是非の議論が続きましたが、将来計画検討委員会の提言に沿って分子生物学会のアイデンティティを失わないように進めていくべきと考えます。分子生物学会員の旺盛な好奇心を考えますと、むしろ別の様々な学会との連携も検討すべきと思います。
2)国際化
われわれ日本人は母国語で最先端の科学を学び研究できる稀有な国民です。これは楽ちんでありがたいことですが、昨今のグローバリゼーション特にアジア諸国の台頭の状況の中では決定的なマイナス要素になってきたと思います。もちろん単純に国際化=英語化ではありませんが、分子生物学会の活動を国際レベルにするためには、外国からの参加や連携が必須ですので、英語化は避けて通れないと考えます。国際シンポジウム構想は今後の課題ですが、年会でのシンポジウムの一層の国際化は必要でしょう。各種アンケート調査では予想以上に消極的な声も多いのですが、日英両記など様々な工夫をして進める必要があると考えます。
3)社会への対応
日本経済の低迷や社会の制度疲労の中、大学予算の減少や法人化、さらには少子化の流れを受けて、ポスドク問題をはじめとする科学の推進にとって重大な問題が多々発生してきました。このままいくと科学の後継者がいなくなり、日本の科学は滅びるのではないか、との強い危機感を抱きます。前16期には事業仕分け等への対応に忙殺されましたが、その中で、科学者からの社会への説明責任はもちろんとして、政策提言の必要性が指摘されてきました。学会の本来の任務はサイエンスですので、どこまで踏み込むべきかについては議論がありますが、分子生物学会らしい政策提言を考えてみたいと思います。16期将来計画検討委員会での議論の申し送りもありますので、まずは中山敬一理事と篠原彰幹事に課題整理のコアグループ形成を依頼しました。その結果を受け、しかるべき委員会/WGを作って進めていきたいと考えています。当然、共通性の高い部分については学会連携や様々な組織との連携で進めていくことになると思います。
4)委員会活動
学会活動の第二の柱であるGenes to Cells 誌の編集出版業務については、柳田編集長と上村匡編集幹事の努力によって順調に進んでいますが、ワーキンググループにおいて引き続き同誌の今後の方向を議論していただきます。研究倫理委員会下部組織の「若手教育問題ワーキンググループ」は重要な活動として定着してきました。メンバーを更新しつつ継続して活動していただきます。「男女共同参画委員会」は活動範囲が拡大してきましたが、大学等での活動も増えていることから、内容の見直しをして進めていくことにします。前期に設置された「学術事業企画委員会」では企画出版の継続に期待したいと思います。最後に、「日本分子生物学会若手研究助成 富澤純一・桂子基金」運営委員会の活動が始まります。分子生物学会を信頼して寄託いただいた富澤先生のご意志を生かすべく、若手の優れた研究者の発掘・育成に努めたいと考えています。
以上、課題は多々ありますが、おおいに議論して進めていきたいと思います。そのためにも会員の皆様のご協力とご支援、活動への積極的な参画をよろしくお願いいたします。
2011年1月
特定非営利活動法人 日本分子生物学会 第17期理事長
(情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所長)
小原 雄治