基金運営委員会委員長 小原 雄治
「日本分子生物学会若手研究助成富澤純一・桂子基金」による第10回研究助成の選考を5月9日に行いました。応募者は131名、お名前からの推定で男性106名、女性25名でした。書面審査により12名の方をヒアリングにお招きし、研究内容および研究環境等について伺った結果、以下に示す6名の方に決定しました。今回は新型コロナウイルス対応のために対面でのヒアリングは困難でしたので、候補者、委員ともリモート参加によるWEB会議形式で行いましたが、事務局の尽力により、海外からの参加も含め比較的スムーズに進められたと思います。審査にあたっては、これまで通り性別への配慮や特定の立場を優先ということはありませんが、結果的に、助成対象者は男性4名女性2名となりました。また、審査過程では応募者が日本分子生物学会会員か否かは非開示でしたが、これも結果的に助成対象者4名が会員、1名が元会員、1名が非会員でした。研究の発展を期待します。
富澤基金の目的とするところは、生命科学の新しい展開を目指す研究を志しながらも、研究費の欠乏や生活上の制約のために十分に力を発揮できていない若手研究者に、使途を限定しない助成を行って、研究の発展を可能にさせることです。公募要領に「申請者の単独研究、または申請者が中心になって行っている共同研究を対象とします」とありますように、審査にあたっては申請者の独自性を重視しました。自らが知りたいことを自らが工夫して明らかにしていくことは科学の原点ですが、これができるのは若手の特権と言えます。もちろん、それを実現するためには論理的かつ緻密な計画が必要ですし、それを裏付ける研究実績も必要です。これらの点を考慮した上で、申請者の個性に裏打ちされた独自性の高い提案を選びました。ヒアリング課題はすべて高いレベルの提案でしたし、それ以外にも優れた提案は多数ありましたが、本助成はこれまでの研究業績に対する褒賞ではありませんし、他の研究資金でその大半は実行可能というような場合には、助成の必要度は低いと判定せざるを得ないこともありました。これらの方針は第1回からずっと堅持されてきたものです。
第1回からこの間、延べ1,197名の応募をいただき、合計50名を助成してきましたが、人数の制限から助成に至らなかった方、ヒアリングに呼べなかった方にも多くの優れた研究計画がありました。本助成は今回の第10回で終了となりますが、今後とも、上記の審査基準に合うような個性に裏打ちされた独自性の高い研究を追求されることを特に若手に期待したいと思います。
最後に、過去10回の公募において積極的に研究提案をいただいた応募者の皆さま、学会業務で多忙な中で的確に事務処理をしていただいた事務局の皆さま、関係者の皆さま、そしてなによりもこのような場を与えてくださった富澤純一先生に厚くお礼申し上げます。
「日本分子生物学会 若手研究助成 富澤純一・桂子基金」基金運営委員会
委員:小原雄治(委員長)、林 茂生(副委員長)、阿形清和、大杉美穂、黒田真也、後藤由季子、東山哲也、深川竜郎
■第10回(2020年)日本分子生物学会 若手研究助成の助成対象者
(氏名・所属機関・研究題目)50音順
○岡本 直樹(筑波大学TARAセンター/申請時の所属はカリフォルニア大学リバーサイド校昆虫学分野)
神経・内分泌系による発生過程における生得的行動調節機構の解明.
Elucidation of the neuroendocrine control of innate behavior during development.
○古藤 日子(産業技術総合研究所生命工学領域生物プロセス研究部門)
アリの社会的な養育行動を介した表現型多型制御メカニズムの解明
Regulatory mechanisms of polyphenism via social nursing behavior in ants
○金 尚宏(東京大学理学系研究科生物科学専攻)
カルシウムクロック:概日時計の普遍原理の追求
Calcium clock: Exploration of universal mechanism of circadian clock
○田渕 理史(Department of Neurosciences, Case Western Reserve University School of Medicine)
アルツハイマー病の治療標的探索に向けた睡眠剥奪依存的な神経細胞の過剰興奮機構の解明と制御
Control of Sleep Deprivation-induced Neuronal Hyperexcitability for Alzheimer's Disease Pathogenesis
○藤井 壮太(東京大学大学院農学生命科学研究科)
植物の生殖初期過程における同種選択の分子メカニズム
Understanding the molecular mechanism for sexual selection in plants
○星野 歩子(東京工業大学生命理工学院/申請時の所属は東京大学IRCN)
がんにおけるエクソソームのプロテオミクス:がん診断バイオマーカーの解析
The exosomal protein in cancer as a biomarker potential