第9回(2019年) 富澤基金による研究助成の審査経過・結果報告

基金運営委員会委員長 小原 雄治

 「日本分子生物学会若手研究助成富澤純一・桂子基金」による第9回研究助成の選考を5月11日に行い、5名の方々の助成を決定いたしました。応募者は94名、お名前からの推定で男性73名、女性21名でした。書面審査により12名の方をヒアリングにお招きし、研究内容および研究環境等について伺った結果、助成対象者は男性3名女性2名となりました。今回、助成対象者は男性が多くなりましたが、これまで通り審査過程で性別に配慮することはなく、特定の立場を優先したということもありません。審査過程では応募者が日本分子生物学会会員か否かは非開示でしたが、結果的には助成対象者5名のうち4名が会員、1名が非会員でした。
 富澤基金の目的とするところは、生命科学の新しい展開を目指す研究を志しながらも、研究費の欠乏や生活上の制約のために十分に力を発揮できていない若手研究者に、使途を限定しない助成を行って、研究の発展を可能にさせることです。公募要領に「申請者の単独研究、または申請者が中心になって行っている共同研究を対象とします」とありますように、審査にあたっては申請者の独自性を重視しました。自らが知りたいことを自らが工夫して明らかにしていくことは科学の原点ですが、これができるのは若手の特権と言えます。もちろん、それを実現するためには論理的かつ緻密な計画が必要ですし、それを裏付ける研究実績も必要です。これらの点を考慮した上で、申請者の個性に裏打ちされた独自性の高い提案を選びました。ヒアリング課題はすべて高いレベルの提案でしたが、本助成はこれまでの研究業績に対する褒賞ではありませんし、研究内容が高度な提案であっても、他の研究資金でその大半は実行可能というような場合には、助成の必要度は低いと判定せざるを得ないこともありました。これらの方針は今後とも堅持しますので、応募される方はご留意ください。
 本助成の公募も残すところあと1回となりました。基金運営委員会および分子生物学会事務局では、使途を限らない本助成の特色を活用した、創意に富んだ研究提案を歓迎いたします。優れた研究を掲げて奮ってご応募ください。

「日本分子生物学会 若手研究助成 富澤純一・桂子基金」基金運営委員会
委員:小原雄治(委員長)、林 茂生(副委員長)、阿形清和、大杉美穂、黒田真也、後藤由季子、東山哲也、深川竜郎

■第9回(2019年)日本分子生物学会 若手研究助成の助成対象者
(氏名・所属機関・研究題目)50音順

○伊藤美菜子(慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室)
中枢神経系疾患における脳Tregの発生機構と神経修復機構の解明
Elucidation of the development and neuronal repair mechanisms of brain Treg cells in central nerve system disorders

○奥村美紗子(広島大学大学院統合生命科学研究科細胞生物学研究室)
光忌避行動の分子・神経基盤の解明
The molecular and neural mechanism of nematode light avoidance behavior

○小幡 史明(東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室)
熱耐性の代謝基盤
The metabolic basis of thermotolerance

○鈴木 郁夫(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)
ヒト大脳皮質の進化を駆動した分子発生生物学的メカニズムの探索
Deciphering the developmental mechanisms relevant to the evolution of human cerebral cortex

○高岡 勝吉(九州大学大学院医学研究院発生再生医学分野/申請時の所属はマックスプランク生物物理化学研究所)
マウス胚における対称性の破れ
Symmetry breaking in the mouse embryos.