2022年11月30日から3日間、29年ぶりに千葉県の幕張メッセを会場として第45回日本分子生物学会年会 (MBSJ2022) を開催した。新型コロナウイルス感染のパンデミック第8波が、まさに始まろうというタイミングであったものの、現地開催を基本としたハイブリッド年会として行い、盛会のうちに終了した。特に、若い人を中心としたSNSでは、楽しかったという声を多数聞くことができ、主催者一同喜んでいる。最終的には、6,358人の参加があり、通常のポスターとLate-breaking Abstractをあわせた一般演題2,566題を含め、全4,055題の発表があった。年会に参加していただいた会員の皆様には、心より感謝申し上げたい。実際、これまでにない企画を多く盛り込んだので、どのような経緯で、またどのような意図で本年会を運営したのかを以下に記す。
私、深川は、約4年前に当時の杉本亜砂子理事長からの推挙でMBSJ2022の年会長を仰せつかった。当時は、学会の庶務幹事などを務めており分子生物学会の執行部の立場でもあったが、学会活動の中心である年会をどう盛り上げるかは、一つの懸案事項でもあったので、年会長を引き受けるにあたり、「盛り上がる年会」にしたいという思いが、まずあった。というのも、私が大学院生の頃に参加した分子生物学会の思い出というと「歯に衣着せぬ議論」であったからである。シンポジウムなどで元気のいい若手研究者が、演者にくってかかり、議論をふっかけるさまをはじめて見た時、他の学会や研究会にない興奮を覚えたのを鮮明に覚えている。また、自身のポスターセッションでも食い入るようにデータを見られ、色々なことを質問され、喉が枯れるまで答えたものであった。最近の年会を見ていると、皆、なんとなくおとなしいように見えていたので、活発な議論のできるMBSJ2022を開催しようという基本コンセプトは、かなりはじめの段階で決めていた (ただし、「激論コロッセオ」という本年会のテーマ名自体は、後の組織委員会で永井健治さんや甲斐歳惠さんらと議論して決定された)。
もう一つの懸案事項が、年会を単独で行うか、他の学会と合同で行うかという点であった。分子生物学会は、生化学会との合同年会を開催したり、ConBioとして生命系の多くの学会を巻き込んで開催したこともあった。また、杉本理事長の時代には、日本生態学会との連携も行った。私は、分子生物学会が学際的であるべきという理念を鑑み、これまで連携したことがない学会と連携できないかと考え、生物物理学会との連携を考えた。昨今のイメージング技術の発展は、生命科学研究の発展には欠かせず、蛍光イメージングからクライオ電子顕微鏡を活用した研究は、分子生物学会年会でも多くの聴衆の興味をひくと思われた。また、生物物理学のリゴラスな考え方は、分子生物学の研究にも必要不可欠な要素であるとも思っていた。そこで、当時生物物理学会の会長であった阪大の原田慶恵さんや、2019年生物物理学会宮崎年会の会長を務める予定であった同じく阪大の永井健治さんにお声がけをして、組織委員会に加わってもらい、学会同士でも連携の合意をしていただいた。このお二人と、阪大生命機能の同僚であり、国際経験が豊かな甲斐歳惠さんを組織委員会に迎え、私を含めて4名の組織委員会でMBSJ2022の準備を開始した。
図1. MBSJ2022の会場の様子。ポスター会場と講演会場が一体化して、参加者同士の密な交流が可能となっている。 組織委員会メンバーとコンセプトが決まれば、次は会場である。「激論コロッセオ」を体現するために、ポスター会場と講演会場が一体化したような会場が必要と感じていた (図1)。深川は、2009年の年会幹事を務めた際、その年会の年会長であった小原雄治さんとそのような会場を作れるかを検討していたが、予算的、技術的問題で断念していた経験があった。しかし、海外の学会に参加するとそのような会場を作っている学会もあり、大きな場所さえ確保できれば、最近の音響・映像技術の発展も加わり、そのような会場作りは可能と思えた。また、最近の分子生物学会の年会会場は、横浜、神戸、福岡をローテションしているが、そこにこだわらず会場を探した。大阪のインテックスや沖縄なども検討したが、最も大きな会場を適切な値段で確保できるのは、千葉県の幕張メッセだった。幕張では、29年前に年会を開催しており、深川も大学院生時代に参加した。当時はメッセの周りには何もなく寂しいところだったと記憶している。しかし、MBSJ2022の開催候補地となり、改めて幕張を視察すると、近年の発展によって周辺施設も充実し、アフターセッションも含めて、参加者には満足いただけると確信した。ともあれ、幕張メッセの大きな会場を確保でき、メッセ側も、MBSJを成功させたいという熱意が感じられ、ポスターと講演会場が一体化したような会場 (図1) で年会を開催する方針がたった。この学会の開催にあたり、千葉県行政による種々のサポートを受けられたことは大きく、熊谷千葉県知事をはじめ、千葉県担当者には心よりお礼を申し上げたい。また、組織委員会の中で、年会の基本コンセプトを絵にすることによって我々の体現したいことを主張すべきという意見が出た。そこでウチダヒロコさんにイラストを担当していただき、甲斐歳惠さんが中心となってMBSJ2022のポスターを考案した (図2)。「激論コロッセオ」の雰囲気が一目でつかめる秀逸なデザインとなっている。ウチダさんには、ポスターだけでなく、各種グッズ、ガイドマップ、フォトブースのデザインなどでご協力いただき、感謝を申し上げたい。
図2. MBSJ2022のポスター。ウチダヒロコ氏のデザイン。
組織委員会のメンバーは、企画を考える上でいつも前向きであり、斬新なアイデアが毎回の委員会であがった。そこで、そのようなアイデアを具現化するためにも新しいメンバーを追加したいということで、神田元紀さん (理研)、須藤雄気さん (岡山大)、茂木文夫さん (北大)に加わってもらった。さらに組織委員会の公募という斬新なアイデアで、樺山一哉さん(阪大)、野間健太郎さん (名大)も加わり、これらのメンバーで多くの企画を考えていった。プログラム要旨システムは、確立したシステムに乗っかるより、多様な要望に柔軟に対応してくれそうなAGRI SMILE社を採用し、グラフィックアブストラクト (推しガチャ機能も含む) やポイントラリーのシステムの導入など新しい挑戦ができた。また、Meet My Hero/Heroine、千葉物産販売 (利酒を含む)、科研費申請書個展、テーマソング、クラッシック生演奏、工夫を凝らしたフォトブース、コンパクトなガイドマップなどなど年会を盛り上げる数多くの仕掛けにより、参加者同士の密な交流が可能になった (図1)。また、ポスター会場と講演会場が一体化した会場に行くためには、企業展示を通る必要があり、そのため、例年にもまして企業ブースを訪れる参加者が多く、企業側からも大好評であった。年会の開催経費の多くは、協賛企業からのスポンサー収入に頼っており、コロナ禍の影響で落ち込んだスポンサー収入が回復したことは朗報と言える。
年会において、最も重要なのは、いうまでもなくサイエンスセッションの充実である。ケミカルバイオロジーのAlice Ting博士、超解像イメージングのStefan W. Hell博士、液相分離のTony Hyman博士と世界最先端の研究者によるプレナリー講演 (3人ともZoom講演であったのが少し残念であったが) に始まり、11セッションの指定シンポジウム、101セッションの公募ワークショップ、19セッションのフォーラムが企画され、いずれも盛況であった。今回の年会では、これまでの分子生物学会で慣例的に行われていた一人一演題の制限をのぞいてみた。会員数などが全体的に減少傾向にある中、精力的な研究者には複数回登壇いただいて、年会を盛り上げてもらいたいという意図である。また、一般演題として2,003題のポスターがあったが、そのうち「サイエンスピッチ」(この命名は、永井健治さんによる)と称する3分間のショートトークの枠を設け、526題の講演があった。3枚のスライドに制限して研究内容の全体像をつかめるため、多くのセッションで立ち見が出るほどの活況となり、参加者に楽しんでいただけて嬉しく思っている。審査員として参加していただいた皆様方に感謝を申し上げたい。また、ピッチ演題のTop10%には、年会から賞を与え、そのうちのさらにトップ数名はEMBOが賞を出してくれた。さらに、EMBO pressのheadであるBernd Pulverer博士によるポスタークリニックも行った。一流のエディターによるアドバイスは、参加者には大変有益だったと思う。
今年会の目標には、国際化を促進させるということも掲げていた。コロナ禍になる前の組織委員会では、欧米だけでなくアジアの若手から中堅クラスのPIを招聘して盛り上げたいという考えがあった。しかし、年会の要旨を提出する2022年の夏頃まで、コロナ禍の影響で日本政府は全ての外国人の日本入国にビザを要求しており、煩雑な手続きをしてまでどの程度の外国人が来てくれるか不安であった。10月にビザが不要となる方針に政府が舵をきり、実際オンラインだけでなく多数の外国人演者が現地で発表してくれたことは、国際化を促進させたと思う。さらにMITのIain CheesemanさんとOISTの清光智美さんの協力を得て、アメリカ細胞生物学会 (ASCB)とEMBOを含めたMBSJ-ASCB-EMBO合同セッションを3日連続で開催した。内容などについては、清光さんが実験医学に記事を書いているので、ここでは詳細は述べないが、欧米の主要組織との連携は、今後の分子生物学会の方向性として重要であり、今後も継続的に取り組んでいただけると嬉しい。また、このような国際連携に関してヒューマンフロンティアサイエンス機構 (HFSPO)に高く評価され、年会へ寄付をいただいたので、ここに感謝の意を記しておきたい。
長い時間をかけて準備し、多様な取り組みを行ったMBSJ2022は、ワクワク感のある楽しい年会となり、一定の成功を収めて終了した。上記の組織委員、魅力的な演題を提案してくれたプログラム委員をはじめ、感染対策アドバイザーの嘉糠洋陸さん、ASCB企画で活躍してくれたIain Cheesemanさん、清光智美さん、ポスターデザイン担当のウチダヒロコさんには深く感謝いたします。もちろん、年会運営の全般を担当していただき、我々組織委員会の無理難題を処理していただいたエーイー企画およびMBSJ事務局の皆様にも心から感謝いたします。そして参加者の皆様、ありがとうございました。また、違う形でお会いできることを期待しています。
2023年2月
第45回日本分子生物学会年会 (MBSJ2022)
年会長 深川竜郎
(大阪大学大学院生命機能研究科)
※YouTubeのMBSJ2022チャンネルでは、MBSJ2022幕張会場の様子を撮影・編集したプロモーションビデオ「激論コロッセオ総集編」と閉会式の動画を公開しています。
https://www.youtube.com/@mbsj2022secretariat