「博士の多様なキャリアパスを切り開く」開催報告

●日 時:2014年11月26日(水)11:45~13:00

●会 場:パシフィコ横浜 会議センター 3階301(第2会場)

●参加者:約310名

●講 演:

「博士号は民間企業でも有用か? ~大学のキャリア支援を活用したPh.D. からの報告~」
谷澤 欣則(日本イーライリリー株式会社 研究開発 / 医学科学本部)

「博士が社会で多彩に活躍! ~大学で博士人材のキャリア支援をしてきた立場から~」
森  典華(名古屋大学社会貢献人材育成本部ビジネス人材育成センター)

 

 本年度のキャリアパス委員会主催企画の第一は、年会二日目に開催したランチョンセミナー「博士の多様なキャリアパスを切り開く」でした。キャリアパス委員会は若手・女性研究者を取り巻く問題について広い観点から議論することを目的として第18期より組織されましたが、その中でも本テーマは委員会名にもなっている「キャリアパス」について正面から扱ったものとなりました。当日は学生や若手研究者を中心に多くの方に興味を持っていただき、定員286名の会場に超満員となる約310名の参加がありました。

 本ランチョンセミナーでは、二つの異なる視点からの講演の後に、恒例となったケータイアナライズシステムによる双方向パネルディスカッションを行いました。谷澤氏による一つ目の講演では、海外ポスドクを経て民間企業に就職し、複数の企業にわたってキャリアを構築してきた“主観的な”観点から経験をお話しいただきました。さらに、森氏による二つ目の講演では、多くの博士のキャリアパスに関するサポートを活発に行ってきた“戦略的な”観点から講演をいただきました。両講演は参加者アンケートでも非常に好評で、キャリアパスに対する意識が大きく変わったという意見が多数ありました。当日参加できなかった方も、書き起こしが分子生物学会のウェブサイトに掲載される予定ですので、是非そちらをご覧ください。博士として培ってきた能力をどのように活かすか、そして自分が何をやりたいのかを改めて見定め、主体的に動きつつ幅広く考えていくこと。そして、その過程では色々な人の助力を得ていくことが可能であるとともに、そうすることが実際に極めて重要であること。キャリアパスの切り開き方に関する本質的なメッセージが伝わる素晴らしい講演でした。

 続いて、講演をいただいた谷澤氏、森氏のほか、キャリアパス委員から塩見、井関、佐藤、東山、柳田、岩崎が登壇し、会場との双方向パネルディスカッションを行いました。選択式の設問は

「設問1:将来のキャリアパスに不安を感じていますか?」
「設問2:アカデミアでの就職へのこだわりの強さは?」
「設問3:博士として国や職場(会社/ 研究機関)を変えつつキャリアアップしていくことをどう思いますか?」
「設問4:自分のキャリアパスについて相談できる人は誰ですか?」
「設問5:キャリアパスを切り開くために、あなた自身がこれから伸ばす必要があると思う力は?」

で、回答を短くまとめると、「キャリアパスには不安を抱えているが、職場や国をキャリアの過程で変えることはポジティブに捉えている。アカデミアへのこだわりは強くなく、相談は友人や先輩にすることが多く、様々な能力を高める必要があると考えている」となりました。なお、参加者属性は学部生と大学院生を合わせて6割超、ポスドクまたは非研究室主宰者(非PI)の任期付き職がおよそ2割でした(詳細なデータはホームページに記載されています)。

 キャリアパスに不安を持つことはいつの時代も変わらないことだとは思いますが、少し驚きだったのは、安定志向というよりは職場や国を変えることをポジティブに捉えている意見がかなり多かったことでした。谷澤氏と森氏の講演にもあったように、そういったキャリアパスを構築する上では、博士号というのは少なからず役に立ってくる資格と言えるでしょう。また登壇者一同やや気になったのは、キャリアパスについて指導教員やPIに相談できるとした割合が高くなかったことでした。指導教員やPIの多くはメンバーが多様なキャリアパスで活躍することを応援してくれると思いますし、一方で、指導教員やPIの側も多様なキャリアパスについて相談を受けやすい雰囲気を出すことが必要でしょう。もちろん、実際にはどうしても相談が難しいケースもありますので、その場合には、大学の相談室などを積極的に活用していただければと思います。最後の設問の「これから伸ばす必要がある力」については満遍なく回答がありましたが、中でも、プロジェクトマネージメント・文章執筆力・プレゼンテーションスキルについては比較的票数が少ない結果となりました。いずれも、アカデミアに限らず創造的・指導的な職で活躍する上で必須な力ではないかと思いますが、あまり重要ではないと考えられているのか、あるいは既に十分に身に付いていると考えられているのか、これもやはり少し気になるところでした。また自由記述のコメントからは、キャリアパスに関する率直な不安のほか、企業所属の方からの有用な博士人材像に関するコメントなど、様々なご意見をお寄せいただきました。今回のランチョンセミナーでは扱えませんでしたが、結婚や出産も男女を問わず学生・若手研究者にとっては気になるトピックでしょう。当日は時間に限りもあり全てを取り上げることはできませんでしたが、いずれも今後も検討していくべきトピックだと考えています。

 博士号というものは一人ひとりが未知の問題を設定し、それを解決して得られるものであることを考えれば、博士のキャリアパスに一般的な答えがないということはある意味で自然なことでもあります。そういった中でも、本ランチョンセミナーを通じて一人でも多くの方が前向きな展望を抱き、具体的な行動へとつながっていったならば、望外の喜びです。

(文責:座長・岩崎 渉)