●日 時:2018年11月29日(木)11:30 ~ 12:45
●会 場:パシフィコ横浜 会議センター3階301
●参加者:約280名
●講 演:小林 武彦(日本分子生物学会キャリアパス委員会 委員長)
ランチョンセミナーでは、まず小林委員長から、第4回日本分子生物学会男女共同参画実態調査(回答数1,788名)の結果をサマライズしていただきました。女性の研究者が少ない理由として、「家庭と仕事の両立が困難」「育児・介護期間後の復帰が困難」。対策としては「可能な限り業務の効率化を図る」「ライフイベント中の研究者の生活環境を整備する」という、これまでも当委員会で提唱してきたこと以外に、生命科学系では他分野と比べて「任期付き」の職が30代を超えても多いという特徴が紹介されました。また、指導的地位の女性比率が低い理由として、男女の意識のずれがある、つまり「上司として女性が望まれない」「評価者に男性を優先する意識がある」と女性は思っているが、男性は必ずしもそのようには思っていないという結果が示されました。そして先進国で女性研究者の割合が最低の日本で、女性比率改善のために行うべき措置として、「業績評価におけるライフイベント等の考慮が必要ではないか。研究支援者の配置。女性を積極的に採用する」こと、そして、「多様性の受け入れ。無意識のバイアスの自覚から離れていく」ことが重要だろうということでまとめられました。
次に今回のテーマ『研究にまつわるお金の話』に関するアンケート結果の分析に移りました。例年のアンケート調査からここ数年で関心が増えていたものの、取り上げにくいテーマであった研究に関する「お金」を今回テーマとして取り上げ、8月30日~9月12日にアンケートを実施しました。回答者数は608名(学生111名、管理職でない方(NPI)257名、管理職の方(PI)240名)で、最近のアンケート調査の中でもかなり多くの回答が寄せられ、皆さんの関心の高さがうかがわれました。まず小林委員長から、このお金に関するアンケート結果のサマリーをしていただきました。前半は、大学院生の生活費に関するお金の話、後半は研究費に関する話です。大学院生で学振のDCをもらっている人は回答者の3分の1で、DC以外の方でサポートを受けている人の金額は4万~20万円と大きく差がありました。卒業後の進路は以前に比べて、アカデミア指向が若干減り、企業や公務員への進路希望も増え、進路に多様性がでてきていると分析されました。非アカデミアで就職を決めている方・企業にお勤めの方のアカデミアに行かない理由は「収入が不安定」だからというのが一番多かったです。また、「減少傾向にある博士課程進学率は、どうしたら増加すると思うか」については、「経済的サポートを充実させる(授業料も取らない)」「博士号取得者の就職を有利にする」という2つの方向性が示されました。「PIになるために必要なものは何だと思うか」について、Non-PIは、「研究実績、人脈、研究費、人間性」と回答、PIは「研究実績、運」でした。また、PIに対して「研究室運営について困っていること」は、「継続して研究費を獲得する難しさ」「PIが研究・教育以外の雑務にやりくりする時間の多さ」「研究費の採択率の低さ」が上位3つでした。研究費については「競争的資金の集中」「競争的資金の配分額」「研究分野の多様性の欠如」が起こっているのでは、との不安・不満の声があり、ランチョンではトップダウン形式で研究分野がきまる日本医療研究開発機構(AMED)や、新学術領域研究について取り上げることになりました。
その後、パネリストが登壇し、ランチョンセミナーの参加者とケータイゴングを利用した双方向性のパネルディスカッションが行われました。議論のテーマとして、事前アンケートの結果や自由記載の内容を踏まえて、以下のトピックスを取り上げました。
「大学院生の生活費と研究を支える学振特別研究員DC(若手研究者への提言)」「若手向けの研究費は必要だけどシニア・ミドル向けの研究費って必要?」「AMEDと新学術領域研究の紹介」「研究費が不足して困ったときの対処法」「研究費の選択と集中に関する是非」「科研費審査システム改革2018の紹介」、そして最後に、「公的研究費でどのような研究を主としてサポートすべきですか?」という質問を問いかけました。
「大学院生の生活費と研究を支える学振特別研究員DC(若手研究者への提言)」については学振の審査の公平性について、ケータイゴングの質問に入りましたが、パネリストたちからは①申請書の体裁と内容がまず基本として重要、そして、②業績は学会発表もありだから、学会に行こう、そして、③学会で発表や質問を積極的に行い、ビジビリティを上げよう、特に「質問」でもビジビリティは十分に上がる、若手の皆さん頑張りましょう、ということで意見がまとまりました。
「若手向けの研究費は必要だけどシニア・ミドル向けの研究費って必要?」のテーマでは、①若手向けの研究費は必要だけど、同時にアイデアがないと有効には使えない、②シニア・ミドル向けの研究費も重要で、それは若手の雇用費につながり、これも結局若手のサポートにつながるというご意見がでました。
次に、事前アンケートで新しい研究費の紹介をしてほしいという意見を踏まえて「AMED と新学術領域研究の紹介」をしました。まず小林委員長から、AMED について、医療に関係する9個の統合プロジェクトを見識のある専門家をボスとしてトップダウンで研究を組織するというAMED 特有のしくみを説明していただき、採択経験のあった司会から、設立当初と比べて現在は、臨床の出口指向だけでなく、基礎研究が重視されていること、現状として若手研究も多く採択され、若手研究者が応援されていることが紹介されました。一方、トップダウンではなく、ボトムアップ式の科研費の利点(応募者が多いと研究費が増えるなど)も分析・紹介されました。新学術領域については、同じようなテーマでチームを組んで行う研究、という基本概念が領域代表経験者から説明されました。しかし、枠が少なすぎる、若手が入る余地がない、と問題点が指摘された一方で、新学術の最終評価には、若手育成をしたかが問われる、という矛盾が指摘されました。新学術は枠が小さいが、やはりビジビリティを上げるため、申請することは必要、との意見が繰り返されました。
次の話題「研究費が不足して困ったときの対処法」については、パネリストと会場の参加者から意見をいただきました。①共同研究をやる、という意見は多く、②科研費(や民間助成金)を次年度に繰り越しておく、③限られたお金の中でできる研究を絞る、③論文を書く、あるいは新しいことを勉強する、などの意見がだされました。パネリストから、「研究費の話は、この業界の偉い先生がたくさん国会議員になって、財務省に影響力を及ぼさないとダメじゃないですかね」、という発言があり、お金の問題は文科省のみに働きかけてもだめで、財務省に働きかける動きを作らないとだめではないか、との意見もでました。実際にアメリカではこのようなことは行われていて、それくらいやらないと、国家のポリシーは変わらないだろうとなりました。この流れを受けて、会場から、「分生党の結成」、「胡桃坂先生、ぜひご出馬を」とのコメントが出てきて、会場は大いに盛り上がりました。
次に「研究費の選択と集中に対する是非」についてのトピックスを取り上げました。その結果、高採択率・低額な研究費を、という回答が圧倒的に多くなりました。研究費という研究基盤が保証されていないというのは大きな問題、もちろん低額でも安定的にもらったほうがいい、という意見が大半でした。次に、分科細目がなくなって大きな枠組みに変わり、異分野の審査員が審査することになる「科研費審査システム改革2018」については、①知り合い同士の談合みたいなものがなくなる、②異分野の研究者にもわかりやすい提案をするようになる、という肯定的な意見が多くなりました。
そして最後に、「公的研究費でどのような研究を主としてサポートすべきですか?」という質問に対しては、「将来実用化につながる可能性のある研究」「実用化には関係なくても生物学の神秘を追求する研究」の両者をバランスよく(50:50)といった意見が最も多くなりました。
「実用化には関係なくても生物学の神秘を追求する研究」が二番目で、「将来実用化につながる可能性のある研究」のみをサポートする意見は非常に少なかったです。
まとめると、学振特別研究員申請に向けても研究費獲得に向けても、若手研究者が人前で発表や質問する機会を与えることが、学会の重要な役割のひとつで、それはその研究者のビジビリティにつながり、それが将来につながるということが認識されました。そして実際に研究費を増やすには、文科省だけではなく、財務省にも働きかけなければ、研究費のことは何も変えられない、ということが指摘されました。また、研究費がないときの対処法の提案や、若手研究者の姿勢についての提言も多く共有され、若手研究者に対し、今後の研究費獲得に向けて、様々な面で積極性が必要である、ということを示すよい機会になったと思います。
(文責:座長・大谷 直子)