【研究室の働き方改革~withコロナ時代のネクストスタンダード~】

●日 時:2022年12月1日(木)11:45~13:00

●会 場:幕張メッセ 国際展示場 第14会場・オンライン

●参加者数:参加者数:175名

 

 2022年キャリアパス委員会主催ランチタイムセミナーでは、様々な研究室で行われている研究を効率的に進めるための工夫について情報共有することを目的とした。セミナーに先立ち8月に事前アンケートを行い、特に各研究室ではコロナ禍をどう過ごしているのか、コロナ禍を機に始まった新しい工夫、コロナ禍を過ごしながら研究活動を維持するためにどのようなことが必要と考えているか、を調査し、計397名の方々から回答をいただいた。この結果をベースに、各研究室におけるメンバーとのコミュニケーション、ディスカッション、日々の過ごし方などの情報を共有した。withコロナ時代のネクストスタンダードと称したが、研究室のあり方(運営)や過ごし方は各人各様であることを尊重し、結論や優劣をつけるものではなく、様々な立場の参加者が相互理解を深めることを大上段の目標とした。
 

【隣は何をする人ぞ】
 前年の2021年に、コロナ禍で初のオンサイト年会となり、本年の幕張年会では組織委員会の皆様のご尽力により、さらに多くのオンサイトセッションがパラレルに開催された。ポスター会場の一角に設けられた特設会場に空席があまりなかったことで、密を避けるためにセミナー参加を断念された方もいらしたとのことだった(申し訳ございません)。また、直前の会場変更にも対応していただき、組織委員の皆様、事務局の皆様、参加してくださった皆様には心より感謝申し上げます。さて、当日オンサイトに来てくれた参加者の属性を見てみると、学部・修士・博士全てを合わせても学生が32.4%だったのに対して、アカデミアのPI職がそれを上回る34.3%と最も多かった。キャリアパス委員会で議論した本企画の目的としては、研究室というアイソレートされた環境の中で、コロナ禍も相まって、他の研究室との情報のシェアが公開された研究以外ではあまり多くない状況もあり、よその研究室のことを知る機会になれば、ということだった。私自身、「秋深し、隣は何をする人ぞ」という松尾芭蕉の句を引用して前置きを述べたのも、孤独さを感じる中で生まれる連帯感を共有できる時間を作れないか(作りたい)という思いからであり、参加率が高かったPIの方々も同じ思いを感じていたのかもしれないと好意的に解釈した。
 

【コアタイムのメリット:コミュニケーションと生活リズム】
 コロナ禍前後で大きく変わったと予測されていた一つが「コアタイム」だった。事前アンケートでは、学生は「ある」「ない」が半々、PIは「ない」が「ある」の1.5倍近くという結果に。「コアタイム(ラボルール)」という表現によるバイアス(認識の違い)の可能性があったため、当日アンケートでは「コアタイム(ラボに滞在することが期待されている時間帯)」にしたところ、時間の多い少ないはあるが、どの属性の参加者も「ある」「ない」が半々となった。事前アンケートでは、「コアタイムについてどう思うか?」「うまく機能しているか?」についても尋ね、コアタイムが「ある」と回答した学生の場合は、機能「している」が54%、「していない」が25%、「わからない、どちらとも言えない」が21%であり、学生側もコアタイムを設定する目的を理解している場合とそうでない場合があることが、自由記述からも伺えた。そこで当日アンケートでは、「コアタイムのメリット」について、自由記述に書かれていた内容を参考に選択肢を作成して複数回答可(3つまで)として尋ねたところ、全体回答率としては、1位「研究室メンバーとのコミュニケーション(75.5%)」2位「生活のリズムを整えやすい(56.6%)」3位「研究に関する質問がしやすい/回答しやすい(54.7%)」という結果になった。PI属性のみ、3位は「防犯/防災上安全(48.6%)」が浮上していた。全体回答率の1位と3位は関連しているため、実質、「コミュニケーション」と「生活リズム」と「防犯/防災」がメリットとして大きいことが伺えた。これを受け、パネリストである各委員により、それぞれのコアタイムに関する考え方、設定しているかいないか、設定していても守れない学生がいた場合、どうコミュニケーションをとるか、などについて意見が交わされた。参加者や委員のコメントに基づいて、コアタイムがなくても自由に研究するのが理想だが、個別にサポートが必要な学生もいるので、研究室の共通認識として在室が期待されている時間を短時間であっても緩く作っておくことで、ラボ内コミュニケーションや、個々に合った研究スタイルの確立の手助けにもなるかもしれない、という議論がなされた。
 事前アンケートの自由記述で、「コアタイムが良い悪いの議論で終わらないことを願う」との指摘があったが、蓋を開けてみるとコアタイムの「あり」「なし」そのものが半々という結果になり、どちらのケースにおいてもメリット・デメリットを共有する機会になったと感じた。
 

【研究コミュニケーション:コロナ禍での新たなツール】
 コロナ禍では、感染拡大防止措置として「ソーシャルディスタンス」が求められ、研究室への滞在時間や入室人数などが制限されるケースがあったと感じる。事前アンケートで聴取した「テレワーク」に関する質問も、対面での議論や指導が困難になった時期から現在までの働き方の変遷を踏まえたもので、やはりコロナ禍でテレワークを導入した研究室は約65%と多かった(PI職の回答/今はやめている場合も含む)。テレワークのメリットとしては「時間の調整がしやすく余裕ができた」、デメリットとしては「コミュニケーションが取りづらく研究の効率が落ちる」、「ウェットの研究で、そもそもテレワークはできない」という内容の記述があった。やはりテレワークも便利ではあるが、コミュニケーションの「密な」とり方については工夫が必要なようである。そこで次に、研究ディスカッションに関する質問をした。コロナ禍でディスカッション体制に変化があった割合は約48%(PI職の回答)と半数近くが影響を受け、そういったケースでは、オンラインでのミーティング頻度が上昇して交流が密になったと感じた学生や、ちょっとした結果が出た場合の対面での雑談が減ったことは大きな損失と感じる、という記述もあった。また、「自発的に結果を持って議論しにくることが重要」との意見がPIから多く、反対に学生は「教員は忙しそうで話しかけにくい」と感じているようだ。そこで当日アンケートで研究ディスカッションの方法と頻度について尋ねたところ、まず、実情については「結果が出たらその都度(64.6%)」と「月数回(週1程度)のミーティング(55.6%)」が5割を超えた。加えて有効だと感じる方法と頻度については、やはり「結果が出たらその都度(52.8%)」が最も多くなった。これを受けて、岩崎委員、石谷委員からは、学生が結果を報告しやすい方法の選択や、都度報告がない学生には教員から話しかけていくなどの工夫、また、定例報告だけでなく、学生がアクセスしやすいように教授室の扉を開けている、などの工夫が紹介された。また、簡便なコミュニケーションツールとしてslackの導入例が紹介された。
 コロナ禍でオンラインでのコミュニケーションツールが増えたことで、PIが出張などで不在の場合もアクセスしやすく、ちょっとした連絡や報告などは圧倒的に便利になった一方で、四六時中つながっていることのプレッシャーやプライバシーの問題もあるかもしれない。他のラボではどうしているか知るために、今現在、ラボで連絡をとる手段として使われている方法について尋ねたところ、「対面での会話(73.7%)」「メール(69.7%)」が圧倒的であり、水をあけて「slack(25.3%)」となった。また、すべての属性において60%以上が望む連絡方法は「対面での会話」となり共通していたが、その次の手段としては、学生は「slack(36.4%)」であり、学生を指導する立場は「メール(44.4%)」となり、簡便さに感じる多少のギャップが伺えた。これを踏まえて各委員より、それぞれが使っている手段と使い方についてコメントが出された。細かい意思疎通が可能な対面、ログを残すメールの使用頻度は維持されているが、コロナ禍でslackを導入したケースは多いようであった。LINEは少しプライベートに踏み込む印象があるが、slackはメールとLINEの中間くらいの距離感で使い勝手が良い、と感じている委員や参加者のコメントが多く寄せられた。
 

【研究室イベント、コロナ禍でどうしてる?】
 コロナ禍での大きな変化の一つとして、対面の交流イベントが激減したことが挙げられる。研究室旅行や飲み会にとどまらず、お昼ごはんを食べながらの雑談やスポーツイベントも中止となっていたのではないか。事前アンケートではやはり、そのような活動はコロナ禍で変化し(61%/学生の回答)、その変化を良くなかったと感じたようであった(50%/学生の回答)。そこで当日アンケートでは、「コロナ禍以降に実施(復活)したイベント」を尋ねたところ、「ラボ飲み会(40.2%)」の一方で「禁止により自粛(21.7%)」という結果となった。飲み会についてはもともと賛否両論あるようで、事前アンケートの自由記述では、「コロナ禍で飲み会が減って健康になった」ことが「良い変化」と感じているケースもあったが、当日アンケートで研究室のアクティビティを上げるための「ラボ飲み会」が重要と感じた参加者は59.1%であった。島田委員、井関委員、菱田委員からは、飲食を伴うイベントは、研究以外の雑談をしやすく、特に学生にとっては、日々のちょっとした悩みを相談できる友人や環境を作る上で有効であるのでは、という意見が出された。不要論もある中で、節度を守って無理強いしない交流イベントのあり方を考えていくことが必要なのかもしれない。
 

【ステイホームを振り返って】
 コロナ禍の初期は特に、「ステイホーム」というかつて経験したことのない生活を送ることになり、それぞれの時間の使い方や人生観が少しだけでも変わったという方が多いのではないだろうか。そこで当日アンケートで「コロナ禍で始めたこと、より充実したこと」を教えてもらった。「特にない(22.2%)」という回答も多かったが、「家族と過ごす時間(35.6%)」「筋トレやヨガ(20%)」など、プライベートや健康面での充実が伺えた。委員からは「家族と過ごす時間」は特徴的なメリットであること、また「運動(自転車)」や「掃除や料理」など経験に基づいたコメントも出された。事前アンケートでも、全体の約半数がコロナ禍をきっかけに実施したことがあるとして、「宅トレ」「散歩」「読書」「健康診断」など、「自分のための時間」に加えて、「家族との時間」が増えたことが記述されていた。
 

【withコロナ時代、これからどうしていくか】
 最後に、「withコロナ時代」に「研究アクテビティを維持するための工夫」について、事前アンケートの自由記述を参考に選択肢を作成し、当日アンケートを実施した。ここまでの議論の流れが導入になった可能性も捨てきれないが、「①オンラインやリモートも活用しつつ、コミュニケーションが取りやすい体制を構築する(62.5%)」「②心身の健康を維持・向上させるために、適度なプライベート時間も尊重する(53.4%)」が多くなった。各委員からは、コロナ禍で半ば強制的に身につけた新しいテクノロジーとしてオンライン環境があり、そのメリットを使いつつも、信頼関係を築く上では対面での「密」なコミュニケーションも重要であり、オンラインと対面といいとこ取りができたら、という意見があった。選択肢にあった「コロナ禍前の研究スタイルを復活させる」は思ったよりも低い回答率となり(12.5%)、コロナ禍で研究のアクテビティが下がったラボは多かったようであるが、新しいツールの充実やコミュニケーションの工夫など、得たものもあったのだと感じさせる結果となった。後日談として、会場では回答者の属性がわからなかったが、手元の集計をみて気づいたことがある。上記①は全属性で高い回答率になったが、②についてはPIの回答率が約20%と他の属性に比べて著しく低かった。ついでに「自身の体調管理を徹底し、健康的に研究を継続させる」も25%にとどまった。原因か結果かはさておき、今回セミナーの企画に携わった者としては、PIもそうでない方々も、どうか皆様が心身の健康に十分留意されることを願います。
 

おわりに
 今回のランチタイムセミナーでは、「研究室の働き方改革 ~withコロナ時代のネクストスタンダード~」と称したが、「これがスタンダード!」という結論をつけることは目的でなく、コロナ禍を経て、少しずつコロナ前の生活が戻りゆく中で、研究活動を維持するために、効率良い研究スタイルを確立するために、他のラボで実施していることや工夫を共有して、次の一助になれば、という方向性での議論になったと思う(ご参加いただいた皆様、事務局の皆様、年会組織委員の皆様、本当にありがとうございました(応援コメントも嬉しかったです!)。また、かなり細かい(しつこい)事前アンケートにも根気よく高い熱量で自由記述にもたくさん書き込んでくださった回答者の皆様にも深くお礼申し上げます。ありがとうございました。) あくまで個人的にだが、「どうやって研究活動を維持したのか」「ラボメンバーの能力を発揮できる効率良い持続可能なラボ運営のコツ」など、多くの参考になる各研究室の工夫を共有させてもらったと感じている。コミュニケーションツールとしてオンラインが加わることで、より充実してきた一方で、パネリストの方々やアンケートの意見でも多かったように、やはり「対面の雑談」に勝るツールはないようだ。学生は臆することなく教員(指導してくれる立場の人)に話しかけ、教員は話しかけやすい雰囲気や環境を用意することが、コロナ禍前後でも変わらず最も重要であると再認識させられた。会の最後には、長年キャリアパス委員としてご尽力されてきた木村委員から、「長年やってきた中で今日の会が一番まったりしていて良かった」との感想を頂いて、パネリストも参加者も全員「うんうん」と頷き笑顔が溢れていた。和やかな雰囲気で締めくくれてホッとしたからか、ふと思ったことがある。これまで多くの諸先輩方のご指導をもとに“研究道”を突っ走ってきた自分自身にとって、脇目も振らず研究に邁進することは良いことであり「そうあるべき」ことと盲信していた一方で、身体を壊したり人間関係で悩んだり、結局コスパが悪いし自分はダメだなぁと思い悩む岐路にぶち当たることがしばしばあった。今回のコロナ禍では良くも悪くも、自分自身と向き合う時間、周りを見回す時間を、作る/作れる方法を見出すことになり、尋ねてみると意外と同じように悩んでいる人たちも多いことを知った。コロナ禍のアイソレートされた環境を経験したことで、それぞれの立場の孤独さを通じて繋がり合うことで生まれる連帯感、というものの存在価値が高まったのではなかろうか。そしてそういう多種多様な人間社会の中だからこそ、良いコミュニケーションによって創発的な面白い研究が生み出されるのだと、信じてやまない。今回のセミナーを通じて、研究室メンバーとのコミュニケーション方法・頻度・工夫について確認/活用していただければ、本企画の目的が達成されたと大変幸いに思う。

(文責:座長・倉永英里奈)