【この人たちに聞こう!キャリア形成と本音】

●日時:2024年11月27日(水)11:30~12:45

●会場:福岡国際会議場2階203(第12会場)・オンライン

●参加者数:260名(現地参加220名・オンライン参加40名)

 

 本セミナーでは、事前アンケートで皆様からお寄せいただいたパネリストへの質問のうち特に学生さんや若手の皆さんに役立ちそうなものをピックアップし、「キャリア形成の本音」と「仕事の本音」に分けて答えていきました。

◆キャリア形成の本音

Q:いつの時期に企業orアカデミア研究者として生きていこうと決意しましたか? それぞれどういった点が素晴らしいですか?

A:「ある時はっきりと決意したわけではなく、岐路に立つたびベストの選択を心がけることの連続で、その結果として今がある」というパネリストが多数でした。また企業で創薬などの研究に取り組む研究者の魅力としては「患者さんに薬が届くかもしれない」というモチベーションにつながりやすく、またチームワークで大きいことに取り組む面白さがあるとのことでした。

Q:外国での研究の良かった点、迷った点、後悔した点は?

A:サイエンスのやり方は国によって特徴があるようです。例えばアメリカに行くと、日本ではすべてできることが求められそうな場面でも「(あれはできないが)これができるから大丈夫」と構えている人が周囲に多く、研究で思い通りにいかなくてポジティブマインドへの切り替えが必要な時などには彼らの考え方が参考になったとのことです。一方「アメリカでは会食など人と絡まねばならない場面が多く、適度な受け流し方のコツをつかむまでの間、実はあのソーシャル感が苦手だった」という体験談も。これに対し「留学先がアメリカかヨーロッパかによってかなり違う可能性がある」「シックな感じが好みの人はヨーロッパが向いているかも?」などの意見が寄せられました。後悔として挙げられた点は「5年間日本に一度も帰らず、人とのつながりが途絶えたこと。年に一回帰ってきて分生の年会へ参加してもよかった」。とはいえ帰国後講演に呼んでもらえたことで人脈は取り戻せたそうです。こちらから講演の機会を探して手を挙げ、知り合いを増やしていくのも一案です。

Q:どうやって結婚相手を見つけましたか? 研究仲間? あるいは婚活?

A:研究の場で出会い同業の方と結婚した人が多いようです。婚活して他業種の方と結婚したケースも紹介しました。研究業界にいると似たジャンルの人が多く、そこで見つかればもちろんハッピーですが、広く色々な業界の人とも会ってみて、自分にどのような相手が合うのか考えてみるのもよさそうです。

Q:出産&育児中の研究活動、大変だったことは? どんな方法で解決しましたか?

A:子どもを預けられる先が便利な場所で見つけやすいなど、仕事を探す際に子育ての環境を含めて調べてみるのもひとつの手かもしれません。セミナーではラボのすぐ近くに保育園がある鳥取大学や熊本大学などの例が話題になりました。また、家事や育児を周囲の人やサービスに頼ることももちろんアリで、これについては「一番抵抗があったのは自分自身であることに気づいた」という経験談を明かすパネリストもいました。

Q:Two-body problem(例えばパートナー同士が一緒に暮らして通える範囲では希望の職を得ることができず、生活とキャリアの両立に難しさが生じる問題)をどのように乗り越えましたか? それに関わる最近の大学の採用事情は?

A:本来は制度的に組織が整備するべき点で、九州大学の配偶者帯同雇用制度などもありますが、日本ではまだまだ現状個人の努力で何とかやりくりしている人も多いようです。「自分で全部解決しようとせず、まずボスや周囲に相談してみることが大切」とのアドバイスもありました。

◆仕事の本音

Q:仕事の優先順位や生活のメリハリはどうやってつけていますか?

A:これはパネリスト間でも人それぞれで「生活しながら経験していることが研究テーマにつながったりするのでメリハリはない」という方もいれば「ワークライフバランスに気を配り、例えば会議を朝と夕方に設定して中抜けできる時間帯を作り、子どもの教育時間や自分の時間を確保する」といった方もいました。私の場合、常に研究のことを何割か考えながら生活しており、家事をしていてもその比率だけが変わるといった感じです。オンオフを完全に切り替えることでパフォーマンスが上がる人ももちろんいると思います。

Q:若手が10-20年単位の独自プロジェクトを立ち上げ・維持するには、どうすれば良いですか?

A:「周囲を見ていると『3~5年か、それ以外』という感じ。3~5年でいけそうにないものは、いつか誰かと出会い動き出すタイミングが来る時まで引き出しにしまっておく」というご意見がありました。関連して、パネリストからはラボを立ち上げたばかりの頃の経験談や、今同じ立場にいる方へのアドバイスが集まりました。

・独立したばかりのラボは人数も少なく、ビッグラボの仕事にかなわない。それでも自分が戦えるところはある。若手PIは一点突破の強みでビジビリティを上げていく。そのうちボスと違うところを見てもらえるようになり、少しずつ大きい仕事ができるようになってくる。

・ラボを始めた頃は高名な師匠がきっかけで自分の研究を見てもらえることがあった。それに助けられながら自分の研究を続けていくうち、研究内容そのものに興味を持った人が声をかけてくれるようになった。立ち上げの頃はボスの名前をうまく活用させてもらうのも手。

・できないところは人に頼る。アメリカなどでは大学の外に出ると直接訪ねるのはなかなか難しいが、日本は国内なら大抵のところには半日で訪ねて行けるので頼れる人が多い。

Q:ラボ運営において、どうやったら継続して研究成果を出していけますか?

A:「あるPIと会った時『自分はボスではなくオーガナイザーである』と言っていて、それが心に残った。その後、とあるラボに所属した際同僚とトラブルがありボスに相談したところ、それまでとは人が変わったかのように真剣に聞いてくれた上、謝られ、すごいと思った。自分自身がラボを持つようになってからは、なるべく多くのメンバーにハッピーでいてほしいと思ってマネジメントするよう心掛けている」というパネリストの経験談があり、皆さんの賛同が集まりました。ラボメンバーや自分自身の「ハッピー指数」を上げるヒントも出ました。

・「研究も大事だけど、研究することを人生楽しくするためのツールにしてはどうか」と先輩に若い頃言われて共鳴した。

・サイエンスは人がやることなので、人とのつながりがないといいサイエンスはできない。研究は歴史があって先人たちの知識。自分はひとつの階段にすぎない。業績をという気持ちもわかるが、もう少しグローバルな視点で、自分が何を貢献できるか考えられるといい。

・目的意識が大切。自分がやっていることの価値を自認できるか。雑務もその意味を知ることで前向きにとりくめる。自分だけで探すより三人くらいで話してみると見えやすいかもしれない。

・自己肯定感をどれだけ高く維持できるか。

 若い人は皆さん色々悩みながらある進路を選択し、やっているうちに考え方が変わっていったり、人に話すことで新たな知識を得られたりします。私の場合、学生時代には節目ごとに進学か就職かで迷い続けていました。PIだった山中伸弥先生から「まずは石の上にも3年」というアドバイスをいただき、それで実践してみたところから色々とつながって、今も研究の道にいます。一方で、入ったラボを短期間でやめて別のところへ移る決断をし、そこからまた新しい道が開けたというパネリストのお話もありましたが、よりハッピーになるよう選択を続けたという点では共通しています。皆さんも岐路に立ったら、その度に楽しいほうへ向かうよう考えてほしいです。このセミナーが少しでも役立ったらうれしく思います。

(文責:座長・三浦 恭子)